阿修羅の意外な戦略
「うん、私も初めてだけど、すごく美味しいっていうか、引き込まれる」
由香利も、満足そうだ。
「これは、ずっと淹れてもらいたい味だ、頼むね、光君」
由香利がにっこりと光を見つめると、光の顔は真っ赤になった。
学園内なら、走って逃げ出すけれど、ここは光の自宅、逃げ出すことは出来ない。
その由香利と光の状態を見ている他の巫女たちは、全く気に入らない。
とにかく、光の視線を由香利から、そらせなければならないと考える。
「ところで、新聞記者はどうしたの?ほら、赤くなっている場合じゃないでしょ」
ずっと黙っていた由紀が光に尋ねた。
由香利の顔を見て、真っ赤になっている光を少しキツイ目で見る。
どうにも、語調も言葉もキツイ。
「うん、珈琲は珈琲、美味しいのは認めるけど、私は毎日淹れてもらっているから、そんなにほめてあげない」
「あの性格の悪い新聞記者を追い出しちゃったんだから、変なことを書かれても困るでしょ?学園とか校長、私たちの悪い評判とか・・・とにかく虚偽報道と論理すり替えは、お得意の新聞社だし」
春奈も同じことを考えていたらしく、光の顔を見ている。
由紀と同じように、春奈も光を見る目がキツイ。
華奈も何か言おうとしたけれど、話すことが見つからなかった。
ただ、由香利から光を「守る」意図があるのか、光の身体にぴったりとくっついている。
その華奈の姿を、他の巫女たちは、やはり気に入らないようだ。
強い目で華奈を見るけれど、華奈は一歩も引かない。
じっと光の顔を見つめている。
「ああ・・・あいつは、新聞社に飛ばした」
そんな巫女連中の不穏な状況は、意中にないのか、光の目が輝き出した。
それに、光のいつもの口調ではない、とにかく力強い。
「うん、光君・・・じゃない・・・阿修羅がそんな戦略を使うとは面白い」
光の顔を見て、ソフィーがニコッと笑った。
ソフィーも光を見つめる巫女連中の心理状況など関心が無いようだ。
光は阿修羅の声で話し始めた。
「ああ、あのA新聞の記者は、自分が取材した通りのことを書く」
「つまり、老人の暴走運転への警鐘と、被害に遭った清水さんの両親の、不当な捜査妨害と公務執行妨害」
「校長先生の犯罪者を擁護する姿勢を問題視する記事」
「もう、印刷に回ってしまっているよ、その記者もあの井出って警察官の親のお気に入りさ、ほとんど取材記事の点検も受けない」
「A新聞社内では、我が物顔でふるまっているらしい」
「それに基づいて、今日の系列のテレビ全国報道で、同じ内容のことを放送する」
「ただ流れてしまう動画は、今日ソフィーが撮影した動画さ」
「それについては、その新聞記者は把握していない」
光は、ここまで話して、全員の顔を見た。
「ただね、他の新聞社とその系列テレビ、マスコミは、真実の報道をするのさ」
「警察庁本庁も、既に事実を把握しているし、官邸も当然、厳しい対応をするだろう」
光の言葉に全員が反応した。
「同じ事件を、A新聞と系列テレビだけが、全然、趣旨を変えて報道するの?」春奈
「誰が見ても、おかしく感じるよね」由紀
「そもそも、今日の動画が流れちゃうんだから、その時点で・・・」由香利
「警察官の煽り運転と、暴言の数々、A新聞記者の暴言までも放送されちゃうと」華奈
「清水君のご両親への暴言と逮捕もひどいし」春奈
「おばあさんの家の前での暴言とニヤケた顔も・・・」由紀
「ああ、校長先生へのゾンザイな対応・・・警察官も新聞記者も・・・ひどいなんてもんじゃない、国家権力と報道の暴力としか言いようがない」
由香利は、再び怒りがこみあげている。
「おそらくその警察署も、A新聞社も、社会的にも叩かれるね、かなり強く」春奈
「いや、警察官はひどいことと、新聞社は事実と全く異なる報道を意図的に行ったわけだから、法的措置もあるかな」由香利
「今日からの報道が楽しみだね」由紀
「うん、思いっきりやっつけて欲しい」華奈
「それにしても・・・」
春奈は、光の顔を見た。
光なのか阿修羅なのか、こんな頭脳的な、闘いをするとは知らなかった。
頭脳的と言えば頭脳的であるけれど、今までのような正面から相手を叩き潰すという闘い方ではない。
その春奈の表情を光が見た。
少し恥ずかしそうな顔になっている。
「春奈さん・・・闘う相手によって、戦略は変えます」
「つまり、力で挑んでくる相手には力で」
「今回のようなペンで挑んでくる相手にはペンで」
「そうかあ・・・」
華奈が納得した顔になった。
「ボクシングにはボクシング、柔道には柔道、野球には野球みたいな感じ、合唱には合唱・・・報道には報道か・・・さすが私の光さんだ」
華奈は、またうれしそうな顔になった。
そして、ますます、ピッタリと光に身体を寄せている。
ただ、突然、講釈のようなことを言い、ニンマリとする華奈を、簡単に周りの巫女はほめようとはしない。
「じゃあ、華奈ちゃんに対抗するにはどうするの?」春奈
「そうだなあ・・・私のような物事がよくわかった大人美女かなあ」由香利
「まだまだ、この由紀も華奈ちゃんなんかには、負けない」由紀
巫女たちの言っていることは、単なる口争い、光や校長、刑事は何も聞いていない。
ソフィーも呆れて、聞き流している。




