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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
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井出警察官の矛盾した説明と逆ギレ

警察署長は刑事の顔をよく知っているらしい。

光たち一行が署長室に入ると、まず刑事に深く頭を下げた。

そして、ソフィーと光には、震えながら頭を下げている。

その警察署長の姿を見て、同じく署長室に入った若い警察官は、首を傾げている。


「ところで、井出君、今日の状況をもう一度、説明してくれないか」

署長は、若い警察官を座らせることはしない。

若い警察官は、井出という姓らしい。

光は、警察署長の正面のソファに座った。

刑事とソフィーが光の両隣、校長、春奈、由香利、由紀、華奈は後ろの椅子に座っている。


井出警察官が、署長に促され、説明を始めた。

「はい、署長、説明いたします」

「本日は、歳末の交通安全取締という事で、警察車両に乗り、循環パトロールを行っておりました」

「そうしましたところ、午前九時に前方を走っている不審な軽トラックを発見しました」

「はい、不審と言う意味は、道路状況が混雑しているわけでもないのに、低速、制限速度内ギリギリと言ったところでしょうか」

「そこで、緊急警報を鳴らしたところ、突然、不審車両が暴走、ついにはハンドルを切り損ねて塀に激突、たまたま、そこを歩いていた高校生をはね飛ばしたのです」

「その高校生は、現在、生死の境をさまよっているか、あるいは亡くなったか、まだ病院で確かめたわけではないですが」

「交通法令上は危険運転致死罪かと、ただ運転していた老女性も亡くなりました」

「後は、塀の物損と高校生に対する賠償が発生すると思います」

井出警察官は、多少緊張しながら、説明を行った。

ただ、その説明で、警察署長と年輩の警察官が首を傾げている。


「はい、その後ですが、その被害に遭った高校生の両親が、私に対して暴言、抗議を行い、公務執行妨害を行いましたので、現在、取り調べの後で、留置を行っております」

「その後、新聞社から取材要請があり、危険運転を行った犯罪者の家に出向いていたところ、被害者の高校生の通う学園の校長が、不当にも私の交通安全指導及び被害者の両親の抗議や公務執行妨害について、疑問を投げつけて来たのです」

「そう、まるで警察が悪いというような口調、それは犯罪者を擁護するような口調でしたので、ここに任意同行を求めた次第であります」

「まことにもって、犯罪者をかばい、警察に疑問を投げかけるなど、校長の言動も、教育者としてあるまじきこと、重大な犯罪でもあり、社会的にも厳しく、糾弾されるべきものであります」

井出警察官の口調は、少しずつ過激さを増した。

顔も赤くなり、自らの言葉に酔っているようにも見える。

 

「うん、君のいう事はそれだけか?」

署長は、井出警察官に尋ねた。

井出警察官は少し考えている。

そして、光たち一行を厳しく見据えた。


「ああ、もう一つありました」

井出警察官はもう一言、あるようだ。

「署長、こいつら、いったい何ですか?何の権限で警察署長室に座っているんですか?」

「任意同行ではなくて、苦情として取り扱うんですか?そもそも、こんな忙しい歳末特別警戒期間中に、迷惑ですよ、あくまでも正当な交通指導、業務執行ですよ!」

そう言いながら、光たち一行を睨み続ける。

井出警察官のその姿を見て、年輩の警察官が真っ青になっている。


「まあ、それはともかくな」

警察署長は、井出警察官の顔を見た。

署長の顔は、かなり厳しくなっている。


「まず、君に聞きたいんだが、法定速度内で走っている車にどうして、緊急警報を鳴らしたのか?それを知りたい、何か前方に鳴らさなければならないような事故があったのか?」

署長は、井出警察官の顔を見ている。


その署長を見て、井出警察官は少しうろたえた顔になった。

どう聞いても署長が正論である、なんとか抗弁をしなければならないと思った。


「はい、一応法定速度内とは、判断をしましたが、時折一旦停止の時間が怪しいと思いまして」

井出警察官は、少しシドロモドロになっている。


「はて、あのスーパーの前の道は一旦停止の場所はない、直線道路だろう」

年輩の警察官も不思議そうな顔になった。

ますます、井出警察官の顔に焦りが強くなった。


「ああ・・・ありません・・・思い出しました・・・ただ、法定速度といっても、時折一キロか二キロ超えているかもしれません、それでも取り締まる必要はあります」

井出警察官の抗弁はあっけなく破たんを迎えた。

緊急警報の理由そのものが、前を走る軽トラックの遅さに腹を立てたことであり、どうにも「嘘」はつき続けられない。

井出警察官としては、何とかして言い逃れをする、あるいは話題転換のネタを頭の中で必死に探していた。


「その、一キロ、二キロって確かめたの?」

「物的証拠はあるの?」

警察署長と井出警察官の問答を聞いていたソフィーが突然口を開いた。


それを聞いた井出警察官の顔に朱が走った。

ただ、「話題転換」のきっかけを掴んだと思った。

そして興奮極まりない言葉で、叫んでしまった。


「おい、何だ、てめえ!突然、警察署長室に入り込みやがって、失礼な事したら、お前だって、ただじゃ済まねえぞ!」

「いったい、何の権限があって、俺の仕事にケチをつけるんだ!」

井出警察官は、途中から光たち一行を「警察の仕事に関するクレーマー、苦情申出者」と判断していた。

そのため、署長自ら対応をしていると、思い込んでいたのである。


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