第27話コンビニで柔道部に絡まれる光
光はいつものように自宅の最寄りの駅を降りた。
自宅は杉並区で、路線としては京王線の井の頭線、吉祥寺にも近い。
ただ、そもそもが住宅地の駅なので、店は少ない。
大型スーパーも二店舗あるけれど、ナマケモノの光にとっては、大型スーパーを歩き回るのは面倒になる。
そのため、歩く距離が短いコンビニでの「出来上がり済み」のお弁当かサンドイッチを買うのが、習慣になっている。
光は
「昨日大雨で夕飯を買いに行けなかった」
「でも今日は、お昼もたくさん食べたし、たいして食欲がないからいいけれど」
「それでも、何か買って帰るかな」
結局、いつものコンビニに寄ることになった。
「あれっ・・・」
いつものようにぼんやりとコンビニに入った光に見慣れない光景が映った。
どうみても自分の学園の学生、それも柔道部の連中である。
人数で五、六人、同学年だと思った。
そして、全員が光より身体が大きい。
その柔道部員たちは、光がコンビニに入ると、一斉に光を見てきた。
ただ、光は特に話をする理由もないので、一応頭だけを下げて、弁当やサンドイッチが置いてある場所に歩く。
すると、柔道部員たちがニヤニヤと笑いながら寄って来た。
「へぇー」
「光君、コンビニ弁当なんだ」
「あのボクシングのキャプテンやっつけたって聞いたけれど、もっとすごいものを食べているのかと思った」
いつの間にボクシング部の事件を聞いたのか、口々に、いろいろなことを言ってくるけれど、光にとっては大きなお世話である。
光は何も相手にせず、いつもの「サンドイッチ二個パック」を手に取る。
しかし、その柔道部員たちはレジまでついてくる。
「そんなので足りるの?」
「案外貧乏人かも」
「ありえねー」
口ぐちに騒ぎ出す。
またしても大きなお世話である。
レジの店員も困惑している。
何しろ、一人の男子高校生が「サンドイッチ二個パック」を買うだけで、周囲に他の男子高校生が群がり絡んでいる、他の買い物客の迷惑になっているのである。
それでも、光は全く相手にしなかった。
とにかく一言も対応をしない。
そして、コンビニを出ると、一気に走り出してしまった。
「おい!」
「光!」
「何だよ!」
「せっかく話しかけてやったのに!」
「逃げるのかよ!」
いろんな声が掛けられるが、光は振り返らない。
柔道部員の二、三人が後を追うが、光には、全く追いつかない。
いつもの、学園内では考えられないような速度で、走り去ってしまった。
「全く逃げ足が速い!」
「許せねえ!」
「俺たちをバカにしやがって!」
「軟弱な光の分際で、俺たちを無視だと?」
「明日の柔道の授業で、絶対にシバイてやる!」
コンビニにいた柔道部員全員が、その顔を真っ赤にして、憤っている。




