弔問客たちの違和感
「そうだね、ある意味、圭子さんの力と似ているけれど・・・」
「全て・・・証拠もあるよ、これだけのことを言う場合は」
「そのスーパーの照明塔の監視カメラの動画を、既にタブレットに取り込んである」
ソフィーの顔は自信に満ちている。
「全ての情報を知ることが出来る力と、伝える力だね」光
「そう・・・観世音菩薩の御力、全てを知ることができる、過去、現在、未来のね、そして慈悲を与える」
ソフィーはにっこりと笑う。
「・・・すご・・・さすが観世音菩薩様」紀
「恐れ多い・・・」由香利
そこまではいいけれど
「ますます強敵だ」
華奈は、またしても別次元の発想になる。
「・・・いや、華奈ゃんは、その前の前の段階・・・というか、足元にも及んでいない」
春奈の言葉は正確、しかし、「春奈自身が足元にも及んでいないこと」も、よく理解している、そのため言葉にも力が無い。
「取りあえず、亡くなったおばあさんの家に」
刑事が車を少し走らせ、停めると、確かにその家らしい。
弔問客も多く来ているのがすぐにわかった。
ただ、それでなくても暗い顔になる弔問客たちも、今回の「暴走犯人、危険運転罪」の犯人扱いには、ますます苦慮しているようだ。
首をかしげて、ヒソヒソ話をしている。
「あんな、完全交通法令順守のお婆さんが暴走するわけがない」
「ほんと、やさしくて、畑仕事もていねいでさ」
「あのおばあさんが、育てた白菜とかキャベツ、甘くて美味しかった」
「うちの子だって、いつも学校帰りにおばあさんと話をするの好きって言っていた」
「うん、学校でイジメにあって泣いて帰った時に、おばあさんが肩を抱いてくれて、ポケットからお饅頭出してくれて、本当に美味しくて、うれしくて・・・」
「夏にさ、部活で喉がカラカラになっていて、自販機でジュース買おうとしたらさ、手招きされて冷たく冷やした梨をもらった、あの時は、ほんとうに生き返った」
ヒソヒソ話は続く。
「・・・ねえ・・・本当に何かの間違いだよね」
「うん、見ていた人は、警察車両の煽りが原因らしい」
「そう、突然、大サイレン、大クラクションと、大声を出されたらしい」
「大声って?」
「そこの、低速ババア!さっさと道を開けろ!開けないと逮捕するって言ったみたい」
「・・・もしかして、あの若い警察官?」
「そうみたい・・・普通に道を歩いていても、話声がうるさいって、警察車両のマイクで怒鳴る人」
「ああ、小学生とか中学生が自転車で走っていても、煽るみたい」
「けっこう、それで怪我している子って多いよね・・・」
聞いている限り、亡くなったおばあさんは評判がいい。
それに比べて、原因となった警察官は、どうにも評判が悪い。
「それでも、清水君の復活を伝えないと」
校長は全員を伴って、おばあさんの家に入った。
おばあさんは横たわり、顔に白い布をかけられている。
校長は、おばあさんに手を合わせた後、しっかりと焼香をした。
全員がそれにならった。
「取りあえず、ご心配の私の学園の生徒は、意識は取り戻しました」
「怪我も全身打撲で、骨折も少ないので、回復はするでしょう」
「その学生から、おばあさんには、非が無いと伝えて欲しいとのことでした」
校長は、本当に丁寧に遺族に告げた。
遺族も、本当に安心したのか、再びおばあさんの遺体にすがって泣き出している。
その姿を見ていた光たち一行も、もらい泣きになった。
弔問を終えて、玄関を出ると、偶然なのか、マスコミらしい記者とおそらく例の「若い警察官」が歩いて来た。
「う・・・あのA新聞と警察官かな」華奈
「気に入らない、なんか、ニヤケている」由紀
「何?こんな弔問の家の玄関写真撮って、遺族の了解もないのに」華奈
「いくら報道の自由と言っても・・・」由香利
「普通は、まず、ご遺体に手を合わせて、冥福をお祈りするものなの」春奈
「ああ、あの記者と警察官にとっては、単なる犯罪者の家なのさ、だから人権も何もない」刑事は苦々しい顔になった。
「そんなことは、許さない」
ソフィーが記者に向かって歩き出した。
光と刑事も歩き出した。
歩きながら光は刑事に「何かを」ささやいた。
ソフィーも聞いていないはずなのに、頷いている。
「でも、少しだけ様子を見ましょう」
歩き出したソフィー、光、刑事の後ろから、校長が声をかけた。
その声で、三人の足が止まった。
亡くなったおばあさんの家に近づく警察官と新聞記者を、注視している。




