気持ちのいい朝に異変発生
翌朝、光と春奈は、気持ちのいい目覚めとなった。
奈良の巫女集団がいなくなったこともある。
光にとっては、特に「口うるさい」同学年のいとこの楓がいないことが、身体と気持ちを楽にさせている。
何しろ楓は、何か光のミスを見つけると、必ず指摘をしてくる。
「ほら、シャツのボタンがまた一つずれている、コンサートの日は二つだったけれど、少しは成長したのかな」
「ちゃんと、お薬飲んだ?あの丸薬を作るのに、あちこちすりむいて大変だったんだから」
「どうして、自分の家の階段をのぼるのに、もたついているの!それでも高校二年生の男子?」
「ご飯ぐらい、しっかり食べて!春奈さんに迷惑をかけないで」
ただ、その楓の言葉を聞いてしまっている春奈も、他の巫女たちも、楓の本心はわかっているし、楓のいないところでは様々会話をしている。
「要するに、私が光君のお世話できるのが、うらやましいんでしょ?」春奈
「楓は東京の大学に合格して、杉並で光君と住みたいっていっているけど、その前に勉強しないと、合格そのものがおぼつかない」圭子
「もし前世で楓ちゃんが光君の奥さんだとすると、光君大変だったんだろうね」美紀
「ああ、世話女房タイプの典型だ、いいんだけど、きつすぎるな」美智子
「でも、本当はベタベタに好きかもしれない、いとこで生まれてしまったイラダチかも」ルシェール
ただ、そんな噂話をする中でも、華奈だけは別の発想になる。
「楓ちゃんが奥さんの時代でも、光さんは私のことを愛してくれている」華奈
「・・・それは、危険な発想・・・」ニケ
「華奈ちゃんとのことが、バレバレになって、光君が張り倒されるとか」ルシェール
「ああ、十分あり得る・・・いや、違う」
由紀は途中まで同調したけれど、すぐに首を横にふる。
「意味不明・・・でも、わかった」
由香利も由紀の考えがわかったたらしい。
「うん、そもそも、光君が華奈ちゃんのところに、行かないとか」春奈
「・・・どうして、いたいけな私をイタブルのかなあ・・・」
華奈は、結局、どんな話題でも利益誘導型の発想を変えることはない。
そんな話はともかくとして、今日は平穏な朝。
朝食は、昨日中華街で買った中華のパンと光がいれた烏龍茶となった。
「この焼餅って、ゴマとネギと塩だけなんだけど、噛みしめると甘くなるね」春奈
「そうだね、中華でも、こういう素朴な味もある」光
「毎日、濃い味だと大変だしね」春奈
「朝は豆乳という家もあるみたい」光
「一度、やってみようか?」春奈
「うん、いいなあ」光
久しぶりに平穏な朝の会話が続いている。
しかし、その久しぶりの平穏さも一瞬にして、打ち破られた。
チャイムが鳴ることもなく、華奈がリビングに飛び込んで来たのである。
しかも、表情がこわばっている。
「え?華奈ちゃん、いきなり、どうしたの?」
春奈は、華奈のただならない様子に驚いた。
光も、華奈の次の言葉に注目している。
「軽音楽部部長の清水さん、交通事故に巻き込まれたんだって!」
「今、祥子先生から電話があった」
「光さんのところには?」
華奈の表情が切迫している。
「あ、スマホ二階だ」
光が立ち上がろうとすると、華奈は待つまでもなく、階段を駆け上がっていく。
「もう!待ってられない!」華奈
「それはそうだけど、そんなに急ぐとか、危ない話なの?」
春奈が声をかけるけれど華奈は、あっと言う間に光の部屋からスマホを持って、二階から駆け下りて来た。
結局、光は一歩も動いていない。
「ああ、見るよ」
光が華奈からスマホを受け取ろうとするが、華奈は渡そうとしない。
そして、ブツブツと文句を言い出した。
「もう、光さん、亀だから、私が見る!」
「全くもう・・・晃子さん、楓ちゃん、由紀さん、ルシェール、春奈さん・・・アヤシイ人ばかり・・・しかもメール開いてもいないし・・・お父さんのメールも見てない・・・」
「どうして、そう、いい加減なの!」
「だから、春奈さんには、任せられないの、こういういい加減な光さんを、甘やかしちゃうから」
「楓ちゃんなんか、どうでもいいから、私がお世話する、ああ、春奈さんは料理係」
黙って聞いていると、どんどん、華奈の言葉はエスカレートしていく。




