阿修羅と地蔵の会話
「そうねえ、テレビで見たことあるけど、富士山を眺めながら露天風呂とか、新鮮なお刺身とかね・・・憧れていたな」
「奈良だと、まったく考えられないしね」
春奈は、温泉に行きたくなった。
ただ、出来れば「光と二人きり」でと考えている。
「あのね、春奈さん」
光が、少し真面目な顔をしている。
「え?なあに?」
春奈は、次の言葉が予想出来ない。
「温泉とか、神社仏閣って、あまり多人数で行くものじゃないよ」
光は、突然不思議なことを言い出した。
「え?どういうこと?」
春奈は、全く理解ができない。
「入浴時間って、人により体調により、微妙に違う、人に合わせるものじゃない」
光にしては、珍しくマトモなことを言う。
「・・・うん・・・そうだねえ・・・」
春奈も保健室の先生、これには素直に納得する。
「神社仏閣も、本来はその人と、そこの神様仏様との対話なので、他人に影響されるべきものじゃないと思う」
光は、神社仏閣についても、至極真っ当なことを言う。
「うん、確かに」
春奈は、久しぶりに光の考えに、同感した。
「できれば・・・春奈さんと行きたいな、ホッとするし」
光は顔を下に向けた。
少し赤くなっているようだ。
「うん!その算段を考えよう!」
春奈は、本当にうれしかった。
やっと、光が自分と一緒に出掛けたいと言ってくれたのである。
今までは、無理やり、春奈が光を引っ張り出した。
そのうえ、華奈を初めとして「邪魔者」が多すぎた。
また、「邪魔者」も、ルシェールを初めとした「超強敵ぞろい」、春奈の存在が、時には「埋没」の状態もあったのである。
それが、ここにきて大逆転になった。
「これこそ、最高のクリスマス・プレゼントだ」
「絶対に、他の巫女連中には結界を張って読ませないようにしないといけない」
「何しろ聞き耳だけは、異常に強い集団だ」
「幸い、奈良の集団は消えた、後は都内組だ」
「リスクは・・・」
春奈は、分析を始めた。
「危険度はまずルシェール、でも新年のミサとかあるな、忙しいだろう、きっと」
「由紀さんも、寒川神社の巫女のバイトで忙しい」
「由香利さんは・・・受験勉強か・・・まずリスクなし」
「華奈?ああ、問題外・・・・というか、あまりにもお子ちゃま体型、露天風呂で私とは入れない」
様々な理由で、当分チャンスには事欠かないと分析結果をまとめたのである。
そして、そうなると、春奈はご機嫌、夕食の準備を始めている。
「光君のお父さんから届いた、新巻鮭も美味しいし、まだウニ、カニ、イクラもある」
光と夕食を食べた後もご機嫌、ゆったりとお風呂に入り、すぐに眠ってしまった。
「さて、お疲れさまでした」
地蔵がの声が聞こえて来た。
どうやらリビングにいるようである。
「ああ、くだらない相手だった」
「闘いそのものは、たいしたことはなかった」
阿修羅の低い声も聞こえて来た。
「イエスとマリア様の秘法をお願いしたんですよ」地蔵
「ああ、復活、蘇生は得意らしいな、あの男の子が助かった」阿修羅
「それで次の闘いとは・・・やはり?」
地蔵の声が曇った。
「うん、あの悪神だ、あれのゴミみたいな傲慢さを、ぶち壊さなくてはいかん」
阿修羅の声がますます低くなった。
「そういうのに、すがってしまうのも人の弱さゆえなんですよ」地蔵
「ああ、決まりごとに、拘泥する弱さか・・・」阿修羅
「はい、秩序を保つという側面もありますが」地蔵
「それもなはき違えている。ある程度の決まり事を守るという事も大事だけれど」阿修羅
「あの神の場合は秩序を守るというよりは」地蔵
「ああ、自らを守りたいのさ、他を認めないしなあ・・・」阿修羅
「それが、人間の世界にも、充満しています」地蔵
「そうさ、首相にも言ったが、法律を守るために国があるのではない、国土・国民を守るために法律というか、それを効率的にするために決まり事があるんだ」阿修羅
「ただ、それがはびこりすぎていると?」地蔵
「ああ、それを糺すために、いろいろ声をかけた、八部衆、金剛力士、あのお方と・・・そしてあいつさ」
阿修羅は、にやっと笑った。
地蔵と阿修羅の会話は、夜遅くまで続いていた。




