第26話ボクシング部への完全勝利と春奈の不安
「そういうことは、きちんと報告した方がいいですよ」
「私だって怖くて仕方がなかったんだから」
練習場に突然、三年生の由香利が入って来た。
そして、キャプテンを見据えている。
「私は、脅迫まがいにキャプテンの彼女にされたの、怖くて仕方が無かった」
「もともと大嫌いなタイプだけど、ゴーマンでいやらしくて」
「最低の男というか、ただのバカな運動ガキだと思ったけれど、殴られても困るし」
「ちょっと他の男の子と話をしようものなら、その男の子はどこか怪我しているとか、転校している」
「おまけに私に、そのジャブっていうの?当てないけど飛んで来るの、当てるつもりはないと言っても、これは脅迫」
「私もいつか言おうと思っていたけれど、怖かったし・・・」
「光君にやっつけてもらって、スッとした」
由香利は光を手招きした。
光は、手を振って応えた。
そして、ゆっくりとリングを降りてくる。
「まあ、これだけの学生が見ていて、これだけの証言があればね、報告は必要ですね」
「夜道でわからないとは言えないし。今後のここの生徒のためにもね・・・」
春奈先生は頷いた。
ボクシング部のキャプテンと顧問はその言葉で、がっくりと肩を落とした。
光がボクシング部の練習場を出ると、全員が拍手で迎えた。
女子学生の中には、ホッとしたのか泣いているものもいる。
「ありがとう」
「すごいなあ」
「見直した」
いろんな声が光に浴びせられる。
光は、多少微笑むだけで、それほど変化はない。
さて、光の次の動きも容易に予想が付いた。
帰宅部の光としては、クラスに鞄を取りに行く以外はありえない。
途中、由香利が腕をそっと組もうとする。
その由香利の顔は、真っ赤である。
しかし、光は突然走り出してしまった。
「ああ、恥ずかしいから・・・」
光は、あっと言う間に自分のクラスに戻り、そのまま廊下を走り校門を出て行ってしまった。
由香利も他の学生もあっけにとられ、ポカンと立ち尽くすしかない状態。
「まあ、逃げ足だけは速いか・・・」
春奈もこれには苦笑いである。
その後、ボクシング部の行状は協会と学園の理事会に報告され、ボクシング部は廃部、キャプテンは退学、顧問も懲戒解雇となった。
ただ、マスコミ当局には、情報は伏せられた。
学園の理事会が、不名誉な実態を夏の各種大会の前に、世間に発表することをためらったのである。
春奈としては気に入らなかった。
「もっと正々堂々と責任を取ればいいのに、追求しようかな」
ただ、春奈の心配の種が、また新たに芽生えていた。
それにより、追求するどころではなかったのである。
この学園にはボクシング部以外にも、運動系の部活はある。
すなわち、柔道部、レスリング部、テニス部、野球部である。
どれを取っても、全国大会レベルである。
そして今回のボクシング部での光の騒動は、各運動部の注目を集めてしまった。
「ボクシング部の次はどこかなあ・・阿修羅もボクシング部ではコントロールしていたけど・・・」
春奈は、不安でいっぱいである。




