光の寂しいお正月?
さて、既に元町をほとんど歩き、山手へと向かう坂の途中に、一軒の甘味屋がある。
「へえ、こんなところに甘味屋さん?」
まず、圭子が注目した。
「お母さん、あれ程食べたのに?」
楓は少し呆れ顔。
「いや、少し歩いたから、お茶でもとね」
圭子は、ニコニコしている。
「うーん、いいかも」
美紀も、乗った。
「ああ、ここは日本の緑茶の種類も多くてね、美味しい」
楓たちの会話を聞いていた光が、店をのぞいている。
「そうだね、緑茶もいいね」春奈
「ああ、光君、緑茶好きさ、子供の頃から」ニケ
「落ち着くね、特に中華の後だしさ」美智子
結局、全員で入ることになった。
「ふぅふぅしないと・・・」華奈
「ああ、これって川根の玉露だ」光
「うん、本当に甘い味」ルシェール
「買って帰って、私に飲ませて」春奈
「あ、それずるい、私たちにも」由香利
「うん、どうせ冬休みだし、お正月でもいいな」由紀
「いいなあ、私だけ、奈良だし・・・」
楓は少しむくれている。
「ねえ・・・ところでさ、光君」
春奈は、少し気になっていることを聞いてみようと思った。
真顔になっている。
「え?」
光はいつもの通り、キョトンとした顔。
「光君のお父さんって、今度のお正月には帰って来るの?単刀直入で悪いけれど」
春奈は、光の顔をまっすぐに見ている。
他の巫女集団も光の顔を見ている。
ただ、圭子と楓だけが顔を下に向けた。
「いや・・・お正月だからって帰って来るってことはないかな」
「最後にお正月に帰って来たのは、小学校六年生の時」
「そもそも、家にいるのが、年に二日か三日だよ」
「最近は、二年以上戻っていないかな」
光は、素直に事実を言った。
聞かれると、それ以上でもそれ以下でもないことを言うしかない。
表情も何も変化がない。
ただ、その「事実」で、まず、春奈の表情が変わった。
既に泣き出している。
「・・・そんな・・・どんなに仕事っていったって・・・こんな・・・可哀そうだよ・・・あんな広い家で、ずっとお正月もクリスマスも一人っきりだったんだ・・・寂しすぎ・・・」
春奈は、光の手を強く握った。
強く握らないと、春奈自身が倒れそうなぐらいだった。
圭子以外の、他の巫女たちも泣いてしまっている。
「ごめんね、春奈ちゃん、泣かせてしまって・・・」
圭子が春奈に謝った。
「うん、私たちも、そういうことわかっていたから、何度も奈良に光君を呼んだんだんだけど・・・返事だけはするけど、光君、絶対来なくてさ」
楓は大泣きになった。
「私も鎌倉にいて心配でさ、何度も電話かけたけど、出ないし・・・」
気丈なニケも泣き出した。
「おそらくね・・・」
ずっと黙っていたピエール神父が光の顔を見た。
「お正月もクリスマスも、光君には無かったんだ」
「あるいは、お正月やクリスマスだから、あの家にいなければならないんだね」
ピエール神父は、光の肩をなでた。
光も頷いている。
そして、やっと口を開いた。
「母さんを・・・そういう時に・・・一人きりにさせたくない」
途切れ途切れながら、光は理由を明らかにした。
唇をきゅっと結んでいる。
「ただね、史さんには、史さんの考えもあるし」圭子
「あくまでも、光君と史さんの家庭のことなんだけどね・・・」美智子
「・・・なかなかむずかしいけれど・・・」美紀
「でも、寂しいことにはかわりはない」ニケ
「出来ることから・・・しましょう」
ルシェールは何かを考えている。
「ああ、そんな心配はしなくてもいいですよ、ずっとだし」
光は、周りの深刻な表情にかえって恐縮している。
しかし、光の言葉は、簡単に否定されてしまった。
「いや、だめ、光君は、幸せなお正月を迎えるべきなの」ルシェール
「そうならないと、私たちの気が済まないし、菜穂子さんに合わせる顔がない」美紀
「お正月のことは、責任をもって相談するから、ゴチャゴチャ言わないで、私たちに任せなさい」圭子
「ほら、お茶飲んだら、山手の坂のぼるよ」
ニケが光の背をたたいた。
光は涙目になっている。
緑茶にむせただけではないようだ。




