光の「新任務?」中華デザートが食べられない光
「うーん・・・」
光は思案をした。
しかし、思案をすることすら、実は難しい。
一国の首相に頭を下げられ、「お願い」をされている。
「わかりました・・・出来る限り」
光の目が輝いた。
その光の目を見て、首相と坂口が身構えている。
「ただね・・・」
光の口調が変わり、声も低くなった。
「本来は、その国の治安を維持するのは、政府の責任さ」
「それを、一旦、一部とはいえ、高校二年生の男の子に担わせるのは、不自然なものがある」
「君たちも、見ての通り、この光って男の子は、華奢で弱々しい」
「この子が、そういった治安に関する動きをして、不審に思う輩も多いのではないか?」
光、いや既に阿修羅が、当然とも思える疑問を、首相に投げかけた。
「あ・・・はい・・・そこでですね・・・」
首相の額から汗が噴き出ている。
「光様には、公安により、全ての場所で警護を付けさせていただきます」
「それから・・・」
首相は一枚のカードを内ポケットから取り出した。
金色に光るカードである。
「もし、それでも・・・万が一ということがあれば、このカードをお使いになってください」
「このカードには、私への連絡がすぐに出来るように特別の番号が記してあります。
また公安を含めた全ての都道府県の警察、司法関係者にも、対応が出来るように、指示を行ってあります」
「それと全ての交通機関での無料パスにもなります」
首相の言うことの、具体的なこと、つまりその金のカードを使ったことによる結果は、今一つわからなかった。
ただ、ここまでのものを準備されるとなると、断りづらいのも事実。
「私も出来る限り、お仕えいたします」
坂口の言葉も、本当に丁寧になった。
「まあ、仕方がないだろう・・・」
既に完全に阿修羅の話し方になっている。
「確かに、この日本という国を狙う国や集団も多い」
「何しろ従順で真面目、能力が高い国民が多い」
「飼いならして奉仕させるには、もってこいの国さ」
「ただ、今までそういうことにならなかったのは、この国を守る様々な神仏の結界が強いため。あの奈良の阿修羅像ですら千三百年も持っているし、血脈も同じ期間、続いている」
「この阿修羅としても、感謝するべきことはあるのさ」
阿修羅と化した光がニコッと笑った。
その笑顔で、首相と坂口が、ホッと安心したような顔になる。
「ただ、これから四月までの間に起こることは、よほど、お前たちも気を引き締めなければならない」
「その引き締めがなければ、この国に住む人だけではない、この国そのものがなくなる」
笑っていた光の顔が、再び引き締まった。
首相と坂口は、再び真顔になり、姿勢を正している。
光と首相、坂口が別室から出ると、巫女集団は全てデザートを食べ終えていた。
「あの・・・せめて杏仁豆腐ぐらい残すとかさ・・・」
光は、あまりのことに呆れてしまった。
「そんなこと言ったって、楓ちゃんが美味しいって食べちゃったんだもの」華奈
「華奈ちゃんだって、ゴマ饅頭四個でしょ、食べ過ぎ」楓
「タピオカのデザートは?ルシェール・・・」
光はすでに涙目になっている。
実はタピオカのデザートは光の大好物。
「ああ、由香利さんと春奈さんと・・・ちょっと私・・・」
ルシェールは顔を伏せた。
「うん、私タピオカのデザート大好きだしさ」春奈
「そうですね、白い御汁粉って感じ」由香利
ルシェール、春奈、由香利も、光のために「残す」という考えは、何もなかった。
「・・・燕の巣は?」
光は、燕の巣も食べたかった。
中華のデザートとしては、最高の部類に位置しているし、なかなか口に入るものではない。
「ああ、それは意地の悪い年増の方たちがほとんど・・・」
華奈が、母親連中の集団を見ている。
確かに、取り皿に、燕の巣の「本当に少し」の残骸が見える。
「ああ、前にも言ったでしょ、美味しいものは早い者勝ち」ニケ
「光君、食べ過ぎると、すぐに、お腹壊すしさ」美紀
「うん、美紀さんの言葉は正解だ、まだ昨日の疲れもあるだろうし、急に食べてはいけないの」美智子
「ルシェールとの、一件を白状しないから、こうなるの」圭子
結局、母親連中は一歩も引くことがない、悪びれることもない。
光は、結局、出来立てのデザートを食べることは出来なかった。
首相と坂口の「同情により」、「お土産として」、中華料理店より、焼菓子を渡されることになった。




