ルシェールが少し緊張
「しかし、本当に大変でしたね」
刑事が眠りこける光に声をかけた。
「ああ・・・寒川の神様には、本当に助けられた」
寝ているはずの光から声が聞こえた。
声が異様に低く、光はいつのまにか阿修羅に変化している。
「地蔵様もマリア様も・・・」
刑事の声が震えた。
「この子が生きながらえているのも、みんなの御力ゆえさ」
眠りこける光ではない、阿修羅そのものが話をしている。
「次は・・・凄い闘いに?」
刑事の声も低くなった。
「今までのとは、段違いさ、それで八部衆も参戦したいようだ、ああ、金剛力士もか・・・」阿修羅
「私も出来れば・・・」刑事
「うん、手伝ってくれると助かる・・・そうだな・・・彼らも来るかな・・・」
阿修羅がニコッと笑うと、刑事の顔が真っ青になった。
クリスマスコンサートの三日前から、ほぼ合宿のように光の家に泊まっていた奈良からの巫女集団は、翌日の午前中に奈良に帰った。
井の頭線の駅で、光と春奈、華奈と美紀、ルシェールが見送った。
「取りあえず帰るけれど、お正月はまた連絡する」圭子
「史さんしだいかなあ。史さんが戻らなかったら、相談だね」美智子
「春奈さん、一言言っておくけどね、決して光君を独り占めなんて、フラチな考えはしないでね」楓
春奈は、特に楓の言葉には、ムッとしたけれど、「楓のやっかみ」ととらえ、受け流した。
「ああ、光君は試験勉強もあるしさ、楓ちゃんのお薬飲まなくていいって、うれしいみたい」
春奈は、言い終えてニンマリとした。
横目で光を見る・・・が・・・光の顔が浮かない。
「あはは、甘い甘い、さっき玄関で四月までの百二十粒、渡しました」
楓は言い終えてフフンと笑う。
「えーーー?」
春奈は、光が可哀そうになった。
やっと闘いが終わったのに、まだ、あの苦い薬を飲まなくてはいけない。
光の顔は浮かないどころか、涙顔になっている。
「いえいえ、全ては光君のため」楓
「いや、世界を守るためさ」圭子
「わかった?春奈、ちゃんと飲ませるんだよ」美智子
春奈は、おまけに母美智子から、「念押し」をされてしまった。
「そっかー・・・」
「でも、いいや、自分が飲むわけじゃないし、光君の泣きそうな顔も可愛いし」
春奈は、あっさりと考えを変えた。
「うん、がっちり、キッチリ飲ませるよ。安心して」
にっこり笑って、奈良へ帰る巫女集団を送り出した。
「でも、しょうがないさ」
華奈の母、美紀は何も反論をしない。
美紀は言葉を続けた。
「でもさ、それ飲み続けて光君が体調崩したら、私も介抱混ぜてね」美紀
「え?それ・・・意味がわかりませんが・・・」春奈
「ああ、光君の子供の頃から、そういうこと慣れているしね」美紀
「お母さん、私の面倒より光さんの面倒が好きなの?」
華奈は少しムクレているが、
「当たり前、あなたは健康だけが取り得だし」
美紀はあっさりと応える。
「・・・そうなんですか?」
春奈は、思わず吹いてしまった。
「うん、そうかもしれませんね、あの食欲はハンパない」
ルシェールも、同じように吹いている。
結局、光と華奈は、顔を曇らせ自宅へ戻っていく。
「ところで、今日のお昼は?」
突然、光が口を開いた。
「ああ、そうだねえ・・・何かあったっけ・・・」春奈
「どうせなら、一緒にどう?」美紀
「奈良の人達、帰りましたので・・・でも、あれ?」
ルシェールがスマホを見ている。
少し顔が緊張している。
「というと・・・奈良にはない味かなあ・・・ところで何かあったの?」
光がルシェールに反応した。
しかし、内容はまだわからない。
「うーん・・・となると・・・関東風だ」華奈
「そうだねえ・・・おそばとか、関東風のラーメンとか?」美紀
「どっちにしろ、江戸前かなあ」春奈
「握り寿司?ウナギ・・・すき焼きは、この間食べたし・・・」華奈
ルシェール以外が、いろいろ考えていると、光の家が見えて来た。
ルシェールはまだ黙っている。




