第25話vsボクシング部キャプテン(2)
顧問や他の部員も驚いた顔で見ている。
それでも、とうとう業を煮やした顧問から声がかかった。
「おい!キャプテン!遊ぶな、当てろ!」
どうやら顧問や他の部員は、キャプテンが遊んでいるだけと思っているようである。
「いや、遊んでないです!」
キャプテンは応えるが、どうやってもキャプテンの拳は光に当たらない。
その光からの攻撃は、未だ全くない。
そのうえ、光は笑い出してしまった。
まるで光のほうが、遊んでいるようである。
すいすいとキャプテンの拳をかわしながら、ついに、あくびまでしている。
「殺してやる!」
そんな光のバカにしたようなあくびを見て、キャプテンの怒りは頂点に達した。
ついに思いっきりのストレートを光に放つ。
絶対あごの先端に当たるはずのストレートであった。
これには顧問も他の部員も目を覆った。
どう考えてもボクシング初心者に対する攻撃ではない。
普通の人はかわせない、当てられたら死亡、または一生不具者になる。
窓の外から見ていた女子学生から再び大きな悲鳴が上がった。
いつの間にか春奈先生も見ていた。
しかし、春奈先生は何も表情を変えていない。
むしろ笑っている。
「ギャアッ」
次の瞬間、大きな悲鳴が練習場全体に響き渡った。
リング上の二人を見ていた全員が凍り付くような悲鳴である。
「くすっ」
春奈先生が笑った。
「まあ、上手にコントロールしたこと」
そのリング上では、キャプテンが立ち尽くしている。
そのキャプテンは、朦朧とした目、立ったまま、既に失禁している。
そして、なんと、光の拳がキャプテンの鼻の先にピタリとつけられている。
「キャプテン、ノロマすぎますね、今度は本気で打ちますよ、続けますか?」
光のおっとりとした声が聞こえてくる。
顧問も他のボクシング部員も固まっている。
あまりの考えられない結果に、まるでどうしたらいいのかわからないようである。
春奈先生が練習場に入って来た。
顧問の先生に声をかける。
「ボクシングの顧問先生、昨日診察記録を整理していたら、昨年度、面白い記録が見つかりました」
「ボクシング部の練習場での事故ですが、全てボクシング未経験者とキャプテンのリング上での練習でした」
「あまり件数はないのですが、私も少し調べてみました」
「これは、校長先生もそうですが、高校のボクシング協会とか、しかるべき公的な機関に報告が必要ですね、例えば警察にも」
「そして私の前の保健室の先生にも、心配で事情をお聞きしたんですが・・・」
「まず校長に報告しようとしたら、先生の子供さんが顔全体に痣を作って帰って来たとか・・・襲われたらしいんですが、どうみてもボクシングのグローブの跡だったとか・・・」
「夜道だったのではっきりしなかったけれど、どう見てもこの学校のボクシング部の練習着だと思うって」
「それから何があっても、黙っていることにしたとか、前の先生も嘆いていました」
「え、そんな、まさか・・・」
「はっきりとした証拠も無いのに」
顧問は首を横に振るが、顔が真っ青である。




