第242話光の死?ルシェールの祈り
「ねえ・・・どうしたらいいんだろう・・・」
「光君、本当に変、あんな目見たことない」
春奈の身体が震えている。
「うん・・・もう、どうにもならないかもしれない」
美智子も涙ぐんだ。
「今、光君は・・・」
美紀も涙で言葉が続かない。
「今は、本当は、ほとんど死んでいる」
「阿修羅に支えられた微かな意識だけが身体を動かしている」
「闘いが終わった瞬間で、本当は光君は死んでいたのさ」
いつの間に現れたのか、ニケが哀しそうに首を横に振った。
「でも、阿修羅の意思が結界の強固な大聖堂の中に、祈祷書が入った光君の身体を無理やり動かし、持ち込んだ、そうすれば祈祷書は悪魔に取られることはない」
「そして、コンサートが終わるまでは阿修羅が支えるけれど・・・終わった時点で、あの世から菜穂子さんが迎えに来る、そういう約束らしい、どっちみち、命はなくなるの・・・特別なことがない限り・・・」
圭子が、哀しそうに首を振った。
見通しの巫女、好子の言葉は絶対である。
その言葉で全員が肩を落とした。
「しかたがないことだけど、みんなの気持ちに応えようという意識だけで」春奈
「必死にフルーツクリームサンド食べたんだ」楓
「いつもと同じようにシソジュースとカフェオレ飲んで」春奈
「おそらく身体を動かすことだけで大変」美紀
「本当にちょっと阿修羅に変化しただけでも、倒れちゃう子だよ、それがあんなに激しく闘ったんだもの・・・コンサートなんて無理さ」ニケ
「復活の呪文もあるけど、あそこまで弱っている光君じゃ使えない」美紀
「もう、私たちの力じゃ無理・・・どうにもならない・・・」
美智子は顔を覆って泣き出した。
いつもは冷静、沈着、気丈な美智子である。
娘の春奈も、その涙で崩れ落ちてしまった。
「あまり・・・気にしないで・・・みんなよくがんばったもの」
圭子が春奈の肩に手を置いた。
「春奈ちゃんには、本当にお世話になったね、夏前からずっと・・・倒れた光君を救ってくれて、それから一緒に住んでもらって、ねえ・・・支えてもらってね・・・光君も感謝していると思うよ」
圭子の言葉で、春奈は肩を震わせて泣いている。
「楓だってよくやった」
「本当に朝早くから、春日様の山に毎日入って傷だらけで薬草を集めて」
「楓にしか出来ないことだけれどね」
「あの薬で光君も、学園の他の人達もここまで持ったんだから、自信持っていいよ」
「でも、もうそんな苦労をすることもない、苦労をする相手もいない」
圭子は楓にも声をかけた。
楓は壁に頭をつけて、号泣となった。
「それから、美紀さん、光君の小さい頃から、時々母代りになってもらって・・・お礼のしようもない、もう・・・こうなってしまってはね・・・」
圭子の言葉に美紀も泣き出した。
「美智子さんには菜穂子さんの最後を看取ってもらって・・・その後もたくさんお世話になった」
「ニケもたくさん食べさせてくれたから、光君の身体がなんとか持った・・・」
「ああ、もう言葉にならない・・・」
「せめて、最期を・・・見送ろうよ・・・」
圭子も、ついに泣き崩れてしまった。
ただ、ルシェールだけは、泣き崩れる日本の巫女たちから離れて、壁際に置かれたマリア像を抱き、別室にこもった。
ルシェールは別室の祭壇の中央に聖母マリア像を置き、跪き十字を切った。
そして、目を閉じてマリア像に話しかけた。
「ねえ、マリア様」
「これで・・・いいの?」
「これでマリア様、満足なの?」
「どうしようもないって思っているの?」
「光君、あの阿修羅を宿して、あんなに頑張ったんだよ」
「それでも、犠牲を欲しいの?」
「それが、マリア様のご意思なの?」
ルシェールは泣き出している。
「犠牲なんて・・・」
ルシェールは床をドンドンとたたいた。
そして壁にかけられたイエス像を見上げた。
「イエスだけで十分じゃない!いつまで、人につらく当たれば気がすむの!」
「どこまで、イエスの終わり方で人が苦しんでいるのかわかっている?」
「そして、阿修羅の寄りましも奪うの?光君が、マリア様に何をしたっていうの?」
ルシェールもついに錯乱状態になった。
いつもの美少女ルシェールではない、髪を振り乱し、顔は涙にまみれている。




