vsボクシング部キャプテン(1)
「これでは来た意味がありません」
「すごく雰囲気が悪いんですが」
光は帰ろうとするけれど、顧問が押しとどめる。
「まあまあ、一度リングってものに上がるのも勉強だ」
「ボクシング部の良夫に恥をかかせ怪我を負わせたんだ、報いを受けるのは当たり前だ!」
「おい、キャプテン!仕返ししろ!」
まるでボクシング部の顧問、教育者とは思えないような言葉である。
ボクシング初心者の光を国体有望選手と同じリングに上げる等、常識ではありえない。
しかも、ニヤニヤと笑っているのである。
キャプテンは顧問の言葉と同時にリングに上がってしまった。
窓の外から見ていた女子学生たちからは、悲鳴があがった。
「誰か他の先生を呼んできて」「危ないよ」
いろんな心配の声が上がっている。
「しょうがないなあ、面倒だけど」
ただ、不思議なことに光は案外落ち着いている。
ちらっと顧問を見て
「どうなっても知りませんよ」
普段の光では言わないようなことを言いだした。
しかも、いつもは弱々しい光が顧問を見据えているのである。
途端に、顧問のニヤニヤ笑いが消えた。
顧問の顔も真っ赤になった。
「この、さっさとあがれ!ヘッドギアなんかつけさせるな!」
途端に怒号である。
結局、光はリングに登ってしまった。
女子学生たちの悲鳴が大きくなる。
「始めろ!」
顧問の怒声でゴングが鳴らされた。
女子学生たちの悲鳴が、ますます大きくなった。
「ふっ・・・」
「こんな弱々しい奴に・・・」
「良夫もダメな奴だ」
キャプテンの矢継早のジャブが光の顔面を襲い始める。
しかし、光に一つも当たらない。
当たる寸前で光は顔をそらすのである。
「ん?」
「おかしいな」
「何だ?こいつ」
キャプテンは、一発もジャブが当たらないことに気づく。
その上光は一歩も脚を動かしていない。
顔面の動きだけでキャプテンのジャブをかわしているのである。
「気に入らねえ!」
キャプテンはますます苛立ち、ジャブを繰り出すけれど全く当たらない。
「それなら!」
ストレートやフック、アッパーを繰り出すが、これも寸前にかわされてしまう。
「どうしたってんだ?」
キャプテンにとって、今までこんな経験はない。
焦りが出て来た。
呼吸も荒くなっている。
しかし目の前の光は、何も表情を変えない。
息ひとつ乱していない。
「この野郎!」
キャプテンは顔を真っ赤にした。
今度はボディを狙う。
しかし、これも何故かよけられてしまう。
まるで当たらない。
キャプテンの焦りは、ますます増幅している。




