第238話VS吸血鬼(1)紅蓮の炎
「あれが殺戮集団?」美紀
「うん、おそらく・・・」圭子
「確かに悪そうな・・・」美智子
地蔵は地面に叩きつけられた殺戮集団に向かって錫杖の鈴を鳴らした。
すると殺戮集団全体の姿が消えてしまった。
「これで・・・終わった?」華奈
「いや・・・まさか・・・」春奈
「ほら・・・今回の黒幕が降りて来た」
圭子が空を指さすと、飛行船はまず、大きなコウモリに変化した。
そして、その羽を羽ばたかせながら、ゆっくりと降りて来た。
「牛の次はコウモリか、全く何百年経っても進歩が無い」
阿修羅は半ばあきれたような顔で、空から降りてくる巨大なコウモリを見ている。
「しかし、油断はなされぬよう・・・何しろ約八百年も人の生き血をむさぼり続けています」
地蔵は哀しみの表情を浮かべている。
しかし、阿修羅は何も表情を変えない。
「たかが八百年、阿修羅の生まれた時から考えれば、瞬時に過ぎない」
「汚れた血は、浄めなければ・・・」
阿修羅は再び両腕を真横に開いた。
そして、身体の中心で手を合わせている。
「ふん!お久しぶりですな」
合掌のポーズを取る阿修羅の前に、巨大なコウモリが、ついに降り立った。
そして、ゆっくりとコウモリの羽を開くと、タキシード姿の男が現れた。
「う・・・あれ・・・映画で見たドラキュラ?」華奈
「うん、髪は総髪、細い顔、口の端から、鋭い牙、タキシード・・・」楓
「本当にいたんだ、あんなの」春奈
「こら、あんなのって、怖いよ、あれ、強いし」美智子
「ニンニクと聖書と十字架だっけ、弱いの」華奈
「ああ、そんなのキリスト教徒が広げただけ、そんなことない」圭子
「・・・どうして?映画だと・・・」春奈
「ああ、そのマリア様を冷酷にも汚したんだから」美紀
「どういうこと?それ・・・」
由紀の声が震えた。
「それじゃ、教会の人だと、かなわないってこと?」
華奈は、すでにガクガクと震えている。
「うん、二人とも落ち着いて」圭子
「あのね、十字軍によるカタリ派の殺戮は1209年7月22日、つまりマグダラの聖マリアの祝祭日から始まった、阿修羅は今でもそれを怒っている」美紀
「マグダラのマリアって、イエスの愛人とか、イエスの子供を身ごもった女性とかの伝説がある人?」楓
「うん、カタリ派はそのマリア様を大切にしていたから、それも悪魔の攻撃の理由」美紀
「それにしても、何も悪意のない人たちを大量虐殺するなんて」春奈
「おそらく財産目当てと、流れる血が楽しい・・・あの悪魔の所業さ」
圭子も苦々しい顔になる。
「お前は、人の生き血を吸い、人を滅ぼして何が面白い」
阿修羅の顔が更に厳しくなった。
目の色が真っ赤になり、全身もそれにつれて赤くなってきている。
「いや、この私とて、邪魔者は排除しなくてはなりません」
「どういうわけか、この時代にあなたが現れてしまった」
「あなたが成長したならば、それは私としても、いや誰も手が出せなくなるほどの強大な神になる、そんなことは認められない」
「だから、今の寄りましの男の子が弱いうちに、除去をしなければならない」
「まあ、八百年前は、あなたが現れる前に、流行り病で殺しました」
「ただ・・・どうやら、この国はまた別の御力があるらしい、けっこう結界が強くて入るにも苦労しましたよ・・・しかし、その寄りましの男の子の命も、残り僅かですな、かろうじて生きているだけ・・・」
吸血鬼は、にやりと笑う。
そして、その言葉に、巫女集団の顔が蒼くなった。
しかし、阿修羅は、ただ、黙って合掌したままである。
「すでに、牛との闘いで、その子は精力も気力を使い果たしている、虫の息ではないですか」
「これから阿修羅が私と戦ったなら、勝負の結果に関係なく、その子は倒れ死にますよ」
「何しろ阿修羅が出るには、寄りましの男の子が必要なことが弱点、私たち悪魔はもともと念の集合体、そもそも人間の肉体など必要が無い」
「それ故、私のかりそめの身体があなたに滅ぼされたとしても、私の念はその祈祷書を奪い取る」
「そして祈祷書が入った段階で、この世もあの世も、全ての力が私に従属する」
吸血鬼は、そう言いおえてニヤリと笑った。
本当に背筋が冷たくなるような冷酷な笑みである。
「言いたいことはそれだけか」
黙って合掌をしていた阿修羅がようやく口を開いた。
「お前の言うことを、この阿修羅が認めるわけが無いだろう」
「そんなことも、わからないほど、この八百年でボケたのか」
「様々な悪行故・・・お前は滅却する」
阿修羅はゆっくりと合掌を解き、その手を真っ直ぐ前に差し出した。
すると阿修羅の全身が紅蓮の炎と化している。
「何?その技を使うのか!」
「そんなことをしたら、この私も倒れるが、その子も死ぬぞ!」
「悪魔のかりそめの身体だけでなく、念とも刺し違えるのか!」
吸血鬼の顔が蒼くなった。
しかし、阿修羅はその言葉を聞くこともない。
そして、前に差し出した阿修羅の手の平から、真っ赤な炎が見えている。
みるみるうちに、炎は大きくなり、阿修羅と吸血鬼を包み込んだ。




