第236話大戦闘直前
「私も参戦したくなりました、いいでしょうか?」
刑事は不思議なことを言う。
「え?もしや・・・あの神を?」
阿修羅の顔も変わった。
「はい・・・是非、参戦したいそうです」
刑事の言葉に由紀が笑った。
「うーん・・・阿修羅だけでも大丈夫なんだけど」
阿修羅は少し渋った。
「そうしないと由紀の目が怖い」
刑事は笑い、その言葉で阿修羅は頷いた。
「さて、このままではコンサートなど始められない、その前に、片付けたい」阿修羅
その言葉で巫女たち全員が姿勢を正した。
「今は金剛力士が立っているから牛は入り込めない」
「入り込めているのは、悪魔の臭い息だけ、それでも人にはかなりな毒になる」
阿修羅の声が低くなった。
「悪魔とは・・・あの・・・」
刑事の声も低くなった。
「うん、あの十字軍とやらを語った、おぞましい虐殺集団を操った悪魔」
「そして悪魔の意を受けて・・・こともあろうに、マリア様まで凌辱した」
「あの時は、残念ながら血筋が途絶えていた、間に合わなかった」
「だから、今こそ、叩きのめさないと、また数百年、いや千年かもしれん、阿修羅は出られない」
「暴虐が世を支配する、どれだけ善なる努力を積み重ねても、その果実は実らない」
阿修羅は、嘆くような声になる。
「その悪魔とは・・・」刑事
「ああ、悪魔というのは、人に悪さをする念の集合体だ、八百年も積み重なっているから、かなり集まっているし、強いし、固い」
「イエスの教えを悪用して、様々な暴虐を繰り返した、十字軍などは悪魔の意思だ」
阿修羅の言葉に、宗教史学者の美紀も、ひとつひとつ頷いている。
「広島長崎の原爆や東京大空襲も・・・ですか?」
美紀は慎重に言葉を選びながら阿修羅に尋ねた。
「ああ、普通の感性を持った人間には、あんな無抵抗な人間を殺戮するようなことも指示も出せない、全て悪魔の意思が入り込んでいる」
阿修羅は重く応えた。
ようやく大聖堂が見えて来た。
ここで巫女たち全員の顔が引き締まった。
「阿修羅様・・・ここでですか?」
圭子が低くつぶやいた。
阿修羅も頷く。
その瞬間である。
華奈が突然、阿修羅と化し始めている光に抱き付いた。
既に大粒の涙を流している。
「阿修羅様!光さんを必ず守って!」
華奈は抱き付きながら顔を胸に埋めている。
「うん、わかった、必ず守る」
華奈はしっかりと抱きかかえられた。
少しして、華奈を抱いていた腕が消え去った。
大聖堂の前には既に、二人の巨人が立っていた。
奈良でも出現した金剛力士である。
「ふん、来たのか、ご苦労なことだ」
阿修羅と化した光が声をかける。
言葉かけが、いかにも面倒くさそうであるが、金剛力士たちは何も気にしない。
「阿修羅ばかりいい思いをしているって、八部衆も十二神将も、おかんむりだ」
「それを、地蔵さんが頭を下げてくれて、おれたちだけにしたんだ」
「まあ、地蔵さんには地蔵さんの考えがあるんだろうがな・・・」
「しかしな、この間の奈良とは段違いだぞ、まずはこいつらだな」
巨人の一人阿形が厳しい顔をしている。
隣で吽形が頷いている。
「まあ、仕方がないか・・・」
「そこまで地蔵さんがそこまで言うんだったら・・・」
阿修羅も頷いた瞬間である。
鈴の音が鳴り響いた。
「少しお待ちを・・・」
「このままでは、戦闘はさせません」
「人が犠牲になります」
地蔵菩薩が並び立った。
今日はいつもより増して、厳かな顔をしている。
「これは正と邪の念の闘い、少なくとも衆生には影響はさせません」
「きつく阿弥陀様にも言われてきました」
そういいながら鈴を鳴らし続けると、一本の道が出来上がった。
道の両側と道の面自体に、透明な壁があるようだ。
おそらく夏のコンサートで、武器弾薬を止めた結界である。
そして、その強い結界のためなのか、少なくともその道には風が吹いていない。
道は大聖堂から晴海ふ頭まで、真っ直ぐに続いているようだ。
「はい、これで道と壁が出来ました」
「道の両側と下は結界をきつく張りました」
「この中には、人つまりこの世の衆生は、入り込めません」
そう言い終えると、地蔵は再び錫杖の鈴を鳴らした。
その鈴の音の大きさが増すにつれて、地蔵の姿が巨大化している。




