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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
231/419

第231話光に抱きしめられる春奈

「そうなると、光君が珈琲豆を挽いている時に、両手がふさがっているから、脇腹くすぐったら面白そうだ」

「そういえば、奈良興福寺の阿修羅って脇腹にスキがある」

いったいどこから、そんな発想に導かれるのかわからないけれど、またしても、どうでもいいことを考えている春奈である。


「でも、今くすぐっても面白いかも」

春奈は、光の脇腹をくすぐりたくなった。


「そうだ、これも光君の心を解放するスキンシップだ、これは大切なことだ」

「あの連中が来ると面倒だから・・・」

春奈は、そう思うと、いてもたってもいられなくなった。

時計の針は既に午前十時をさしている。


「あの異常に朝に強い、耐久力だけは、凄まじい巫女集団だ、ここにその姿を現す前に思いをとげなくては・・・」

脇腹をくすぐることが、どうして「思いをとげる」まで、話が発展するのかわからないが、春奈はソファでぼんやりする光に近づいていく。


「ねえ、ちょっと光君、立ってみて」

春奈は、心の中ではニンマリ、口調は「保健室の先生」風に声をかけた。


「え?何?」

それでも、春奈の意図がわからない光は、ヨロヨロと立ち上がる。

そのヨロヨロさも、春奈としては「付け入るスキ十分」判定、心の中のニンマリ感がアップした。


「それでね、まず両手を横に広げてから、手を前で合わせて、そう阿修羅のポーズね」

だんだん、思いをとげる瞬間が近くなってきた。

春奈は、少しドキドキしている。


「うん、こう?」

光は、言われる通り阿修羅のポーズを取った。


「うん、決まっている」

春奈がますますドキドキするほど光の阿修羅ポーズは決まっているが、目的は別にある。


「えへへ・・・」

ついにチャンス到来である。

ここは、一瞬のタメライも許されない。

何しろタイミング勝負だと思った。

春奈は、一気に光に近づき、脇腹をくすぐってしまう。


「わっ!春奈さん!」

突然のことに光は身体全体を震わせた。

そして前で合わせていた手と腕は、春奈を覆ってしまう。


「やった!大成功!」

春奈は大満足である。

脇腹くすぐりが成功したうえ、光に抱きかかえられた状態になったのである。

既に春奈の顔は真っ赤である。


「突然、どうしたんですか」

光の驚いた声も想定済み、それもうれしかった。

全てがうれしすぎて、何も言うことができない。

今までの心配とか苦労とか、うれしさ故、消え去ってしまった。


「うん、いつもありがとう、春奈さんのこと、大切にします」

光はお礼まで言った。

おどおどとした言い方ではあるが、言葉に心がこもっていた。

春奈の目に突然涙があふれている。


ただ、春奈にとっての幸せな時間もすぐに終わった。

玄関のチャイムが鳴り響いたのである。

途端に明るく元気な少女の声がインタフォン越しに鳴り響く。


「おはようございます、光さん、そして春奈さん」

「早めに駅まで迎えに行ったほうが無難ですよ」

恒例の華奈の大声である。


「・・・まったく、あの小娘、いつでも邪魔ばかり・・・」

「そして春奈さんって言い方が気に入らない、付け足しみたいじゃない・・・」

「あの大声だったらインタフォンいらない」

「あんな子供声だから、合唱部に入れてもらえないの」

様々、ブツブツ文句を言うが玄関には出ない。

そもそも、華奈は合鍵を持っているのに、どうしてインタフォンで騒ぐのか、その無神経さが理解できない。

華奈も心得たもので、結局どんどんリビングに入ってきてしまう。


「さっき華奈ちゃんから連絡があってね、荷物が多いって」

「本当に多いと思う」

「お土産は少なく、自らの荷物は多い状態らしい」

華奈は、いろいろ言いながら、すんなりと光の隣に座ってしまう。


「・・・何のためらいもなく」

春奈は悔しいが、今日は初めて光に抱きかかえられる状態になった。

奈良に最初に行ったときは、春奈が光を「抱きかかえて引きずった」のである。

その変化が偶然とはいえ、うれしくて仕方がない。


「それでね、私もしてもいいかな?」

華奈は意味不明なことを言い出した。

光キョトンとしている。


「ほら、とぼけない、春奈さんには許して私には許さないの?」

「ねえ、まず脇腹」

「そしてその後ぎゅっと」

華奈は、真顔になっている。

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