第23話これでは約束が違う!
結局お弁当の量が異常に多いので、クラスの男子学生も含めて全員でお昼を食べることになった。
光は由香里の弁当と由紀の弁当を「行きがかり上」二つ食べる。
まあ、いつものフルーツクリームサンドとは違う、豪華なお昼である。
「どっちが美味しい?」
由紀が聞いてくるけれど、答えられる訳がない。
クラス全員の注目が集まるけれど、光は二つのお弁当箱を並べて適当に食べているだけ。
「・・・うーん、両方とも美味しい」
光は無難な答えを選択する以外に方法はなかった。
午後の授業も終わり、ついに放課後になった。
女子学生だけではなく、男子学生も心配する。
「本当に行く?」
「無理だよ、危ない」
「そのまま帰ったほうがいい」
男子学生たちは、光の日頃の弱々しさを知り抜いている。
そんな光がボクシング部で、酷い目にあうのは当然だと思っている。
「大丈夫だよ、見てくるだけ」
しかし光は、全く聞き耳を持たない。
廊下をヨタヨタといつも通り歩いていく。
その事情は、瞬く間に校内に広まったらしい。
本当に数多くの男子、女子を問わない学生たちが光の後に続いて歩いている。
「おっ・・・来たか、それにしても」
ボクシング部の練習場の前には、顧問が待っていた。
光の後ろにたくさんの学生がいることに、驚いているようだ。
「はい、ちょっとだけ、見に来ました」光
「うん、ありがとう」
顧問は一応、礼を述べた。
光を伴って練習場に入る。
練習場では、二十人程度のボクシング部員が縄跳びや、サンドバッグを叩いて練習をしている。
顧問と光が練習場に入ると、一斉に光を見てきた。
「おい、お待ちかねの光君だ、練習を見に来たということだ」
顧問の話はそこまではよかった。
しかし、突然口調そのものが変化する。
「何しろ、良夫を酷い目に合わせたそうだ、お礼をしなければなあ」
何故か顧問の口調は昨日のお昼と、練習場の前でのお礼と全然違っている。
少なくとも突然襲われたのは、光の方である。
光は、あまりの変化に顧問の顔を見るけれど、顧問はせせら笑っている。
「おい!練習着は?」
突然声がかかった。
声の主はキャプテン。
真っ赤な顔、何故かはっきりとわかる怒り顔をしている。
「え?見るだけですよ、練習着などありません、体操着もない」
光は、ここで練習も、そもそも運動もするとは考えていない。
昨日の約束通り「少し見るだけ」なのである。
しかし、その言葉はボクシング部では、全く通用しなかった。
「何だと?てめえ!」
まず、キャプテンが怒鳴った。
「このボクシング部に呼ばれて練習着を持って来ない?」
「良夫に暴行を働く!」
「おまけに由香利に何をした!」
キャプテンの顔は、ますます真っ赤になった。
しかし、練習着を持っていないことは、もともと見るだけと言う話であり、良夫についてはまず良夫からの暴行、由香利の弁当は光がお願いしたことではない。
どう考えてもキャプテンの言動は理不尽である。
光はあきれて顧問の顔を見るけれど、ニヤニヤと笑っているだけである。




