第224話資金量豊富な教会
結局、光を取り囲んだ男子学生と審査員たちは、そのまま警察に連行された。
そして、翌日のマスコミでも大きく報道され、その高校の合唱部は結局廃部、審査員も審査員長の関連から脱税が発覚し、高校を懲戒免職となった。
「・・・どうしてニケさん、ここに?」
光はニケと歩きながら、突然の登場の理由を尋ねた。
由紀も不思議そうな顔をしている。
「あはは、そんなの簡単さ、予想通りだもん」
「本当は人がいなかったら、光君にぶっとばしてほしかった、私も見たかった」
ニケは笑っている。
ニケの言葉遣いそのものが、歯切れがいいし、光も笑ってしまう。
「そりゃそうさ、マスコミであれほどたたかれば、逆恨みするのが出てくる」
「それにあの高校は、鎌倉の私の家の近所、光君をここで襲う相談をしている声も聞いちゃったしね」
「それで、事前にマスコミとか警察にも連絡してあったのさ」
「まあ、光君にやっつけてもらうのも楽しみだけど、まあ、あんな小物じゃ意味ないしさ」
ニケはケラケラと笑う。
「本当にニケさんには、子供の頃からお世話になりっぱなしで」
光も頭を下げる。
「何、気にすることないさ、ニケも光君の役に立ちたい」ニケ
「ありがとうございます、助かります」光
「そんなことよりさ、また、ちゃんと食べてないでしょ、怒るよ、そっちのほうは」ニケはポンポンと光を責めてくる。
「・・・ごめんなさい・・・なんか食欲が落ちていて」
光も、ニケには素直である。
「あのね、春奈ちゃんん、本当に悩んでいるよ、ちゃんと食べないって」ニケ
「私もすごく心配なんです、お弁当もやっと食べている」由紀
「まあ、今日はルシェールがおやつを作って待っているって言っていたから」ニケ
「わ・・・フレンチトーストかな・・・」由紀
「ああ、それもあるけれど、サヴァランも作るって言っていた」ニケ
いつの間にか、光の食欲話から、ルシェールのおやつ話に話題が変化した。
これで光はやっと「追及」されずに、大聖堂への道を歩くことが出来たのである。
大聖堂につくと、既に晃子と祥子、そして晃子の音大からの同僚の美佳と圭子が練習をしていた。
奥から、ルシェールとピエール神父が出て来た。
「やあ、ニケ、お久しぶり」
ピエール神父もうれしそうである。
「うん、雑魚は退治してきたよ」
ニケもうれしそうな顔をしている。
「さて、まずは集まったからおやつかな」
ルシェールもにっこりと笑う。
「あれ・・・」
ところが、光が教会の奥を見ている。
「いたんだ・・・」
光は笑っている。
華奈が、お菓子の乗った大皿を持って出て来たのである。
「さて、サヴァランとフレンチトーストにございます」
華奈にしては、うやうやしく、みんなの前にお菓子が乗った大皿を置いた。
「あなたが作ったわけじゃない、あなたは乗せただけ、運んだだけ・・・」
ルシェールも紅茶を入れながら呆れるけれど、華奈は満面の笑みを崩さない。
「まあまあ、美味しくできています、召し上がってください」
ピエール神父の言葉で全員が食べ始めた。
「ほんと、フレンチトースト、プリンみたい」晃子
「サヴァランも香りが、ゴージャス」美佳
「紅茶もなかなか・・・」圭子
「光君、しっかり食べてね、ルシェールの愛情たっぷりです」
ルシェールは手渡しで、フレンチトーストを光に渡している。
「愛情って何さ・・・」晃子
「うん、お菓子と愛情は別」由紀
「いいや、食べている時限りさ」華奈
様々、攻防戦がそれぞれの頭の中だけで繰り広げられるけれど、光は黙々と食べているだけ。
そもそも、攻防戦の存在そのものを、光は理解していない。
「さて、おやつを食べながらですが」
ピエール神父が語り出した。
「今年のクリスマスコンサートは、いつもと趣向を変えることにしました」
「もちろん、いつもの定番の聖歌は演奏を行いますが、オーケストラや合唱のボリュームも厚くなりましたので、アレンジを加えます」
「アレンジそのものは、小沢先生にお願いをしましたので、今後楽譜が届く予定です、今日は練習の打ち合わせが主体となります」
ピエール神父は全員の顔を見た。
「基本的には、私の学園の音楽部、合唱部と晃子さんたちですね」祥子
「はい、後は信徒たちが合唱に加わります」ピエール神父
「かなりな人数になりそうですね」晃子
「はい、そうなると、少々手立てとして・・・」
ピエール神父はニケを見た。
ニケも頷いている。
「学園まで練習のある日ごとに、二台ほど送迎バスを出します、晃子さんたちも学園から乗ってください」
「今日のようなことがあると面倒ですし、楽器の運搬もあります、何より安全第一です」
ピエール神父は、慎重な物言いをする。
しかし、地下鉄を乗り継いで、学園から二十分程度の距離に、練習日ごとにバスを二台出すと言う。
「さすが・・・資金量豊富な教会」
晃子は舌を巻いている。




