第222話地蔵の本願
翌日の登校から学園は大変な騒ぎになった。
合唱コンクール優勝の垂れ幕は当然のこと、学生たちは光や合唱部、軽音楽部からメインボーカルで参加した久保田や清水の周りに、群がって話を聞いている。
また、大手全国紙にも記事が写真入りで掲載され、今日は音楽雑誌数社からの取材が申し込まれた。
「まあ、取りあえず時間を区切って共同取材に」校長
「うん、あまり騒がれると、学生の勉強にも邪魔です、大切な時期ですから」
祥子は不安な顔になっている。
「でも、光君はインタヴューとかちゃんと出来るのかな」春奈
「ああ、光君は希望で写真だけにしました、それも全体の写真にします」校長
「音楽界にも、合唱界にも注目されちゃったし、今後大変かなあ」祥子
「そうですね、ただ、少し体力が落ちているかもしれません、また食欲が減っています」
春奈も別の意味で、不安な顔になっている。
「・・・そうなると・・・ちょっと・・・」
校長の顔色が変わった。
校長は春奈だけを別室に呼び、具体的な状況を聞くことになった。
「確かに文化祭、コンサート、そして合唱部のコンクールと立て続けだったから、疲れているかもしれないな」
校長は、春奈の顔を見た。
「そうですね。時折、変わったことをすると食欲が戻ることがあるんですが、あくまでもその時だけで」春奈
「もしかすると・・・」
校長は顔をしかめた。
そして十字を切り、壁にかけられたイエス像に何か、祈りの言葉をかけた。
「もしかすると・・・とは?」
これには、春奈も不安になる。
「はい、少しずつ念というのか、悪の念が近づいています」
「それに応じて、光君の身体の中の阿修羅が大きくなってきています」
「そのため、阿修羅が動くと精力も余分に消費し、疲れやすいのかもしれない」
「春奈先生・・・」
校長の目が光り、本当に真剣な顔になっている。
「・・・はい・・・」
春奈は姿勢を正した。
国内いや世界でも有数のエクソシストの言葉である、心して聞かなければならない。
「とにかく、雲行きが怪しい時、特に雨の日は、光君を外出させないでください」
「私も学園全体に指示を出します」
「とにかく、人の体力を奪う毒霧が降ります」
「・・・それから、恐ろしい・・・」
校長の身体が小刻みに震えてきた。
「ミノタウロス・・・そして吸血鬼・・・」
校長の顔面が蒼白となった。
「さて、コンクールとやらも終わり・・・」
眠っている光の枕元に、錫杖と宝珠を持った地蔵が立った。
いつもと異なり、錫杖と宝珠の形が明確に見える。
「うん、少しだけ手を出した」
阿修羅も枕元に立った。
阿修羅も顔が三面、手も六本になっている。
「そうですね、抑えられてはいましたが」地蔵
「ああ、勝負と聞くと我慢できない、ただ、体調が悪そうだった」阿修羅
「それにしても、まだまだ不安ですね」地蔵
「ああ、薬師の巫女に頼んで薬を飲ませているが、なかなか難しい」阿修羅
「それにしても一気にカタをつけることは、大変でしょう」地蔵
「まあ、それしかないのだが・・・」阿修羅
「あの姿からこの子に戻れるでしょうか?」
地蔵が不安気な声になった。
「いや、あの姿にはなる・・・それ以外には方法はない・・・」
「ただ、戻る時に、この子の身体は持つか持たないか・・・ギリギリかな」
阿修羅は厳しい顔をしている。
「しかし、これ以上、悪と暴虐をのさばらせることはできないと・・・」地蔵
「ああ、この世に出た以上は、阿修羅は人を救う」阿修羅
「この子がギリギリですね・・・」地蔵
「ああ、生きながらえても、その後が・・・」
阿修羅はますます厳しい顔になった。
「わかりました、後は、この地蔵におまかせください」
地蔵の声が低くなった。
「うん、いつも助かる、しかし地蔵さんが、こうして手伝ってくれるから」阿修羅
「それが私の使命、本願ですよ」
地蔵はフッと笑った。
「大丈夫、万が一を考えてあります」
地蔵は、最後に不思議なことを言った。




