第220話合唱コンクール(3)完全勝利!
それでも出番を待つ学生の中で、他の学校に関心がある者がいるらしい。
「あの学園、今年は学生の指揮者だって」
「へえ、誰?」
「うん、あの男の子」
「へーーー何か、きれい、雰囲気がある」
「引き寄せられそう」
「私たちの先生よりいいな、頑固でつまらない」
「手を握っている女の子が気に入らない」
女子学生たちの注目が光に集まっている。
しかし、特に男子学生は光が気に入らないようだ。
「何だ、本番前に女と手をつないだりして」
「神聖なコンクールをなめている」
「そんなポッと出の指揮者で、出場するなんて」
「小沢氏の指導?小沢って誰?」
「音楽界の人でしょ?うちの先生のほうが、合唱では偉い」
「合唱コンクールで何も実績が無い人に頭を下げる必要なし!」
「あの、光ってガキを、コンクールが終わったら問い詰めろ」
そのような、少し不穏な雰囲気の中、コンクールが始まった。
開催者代表の長々しい挨拶の後、各校の合唱部が順番にステージに登場した。
「うん、合唱は上手だ、しかし・・・」小沢
「一糸乱れずきれいなだけで、学生の目が死んでいる」晃子
「音楽じゃない、こういうのって機械と同じ」元ベルリンフィルコンサートマスター
「声の伸びが全然ない、これでは心に感動を与えない」ウィーン歌劇場合唱指揮者
「うーん・・・曲そのものが、つまらない、こういうことやっていて楽しいのかな」
「音楽でないものを、音楽コンクールしていいのかな」
様々な、音楽界の超大物の批判の中、合唱界の最高峰のコンクールは順次進められていく。
「さて、いよいよだね、光君の登場」
由香利もいつの間にか聞きに来ている。
「うん、今日は気合入っているかな」
ルシェールも隣に座っている。
「どうなるんだろうね、面白いな」春奈
「あ、出て来た、目の光・・・いや全身が光っている」
華奈の声が震えた。
「ふう・・・課題曲は完璧、ハーモニーといい、声の伸びといい」小沢
「こんなつまらない曲を面白く引きだしている、学生の顔も一番明るい」晃子
「とにかく、迫力が他の学校と段違い」ベルリンフィル元コンサートマスター
「これなら、コンサートでも使える」ウィーン歌劇場合唱指揮者
「聴衆も聞き惚れています、音楽が別次元になっています」
他の超大物も同じ意見のようであり、一斉に頷いている。
「さあ、シカゴだ、審査員がどうでるかさ、ロックなんか聴いたこともないだろうから」小沢
「ロックどころか、合唱以外の音楽は知らないようです、編曲者の小沢先生の名前も知らないみたい」
「審査員の表情に変化が無いもの、そういう体質が心配」晃子
光の身体全体が光輝き、勝負をかけた自由曲を振り始めた。
「いや・・心配はいらないかな・・・阿修羅の力が宿った」
春奈がつぶやいた。
「最初は大コラール?きれいで圧倒的」晃子
「うん、力強い」ルシェール
「久保田さんの声も、なんか・・・すごい」由香利
「光君のダイナミックスとテンポの設定が、天国的」小沢
「ああ、すごい!観客も泣き出した」元ベルリンフィルコンサートマスター
「審査員も驚いている」ウィーン歌劇場合唱指揮者
「すごいクライマックス!」ニューヨークメトロポリタンのプリマドンナ
その自由曲が終わり、光が指揮台を降りて、お辞儀をした。
「うわーーー総立ち!」華奈
「審査員まで立っている!」春奈
「すっごい拍手・・・外の学校ではないよ、こんなの」ルシェール
とにかく別次元の合唱だったようだ。
光の学園の演奏終了と同時に、既に結果は決まっていた。
次以降に登場する学校も、完全に光たちの演奏に圧倒されてしまった。
聴衆の拍手もすべて、まばらなものになった。
優勝校としての賞状は光が受け取った。
全ての審査員も本当に満足そうな顔のままである。
そして、審査員長のたっての希望で、自由曲をアンコールされた。
しかし、その演奏が終わっても、アンコールがやまない。
光は、少し考えた後、突然客席の小沢を手招きした。
「ふふっ・・・予想通りさ」
小沢は頷き、連れて来た超大物音楽家もステージに上げてしまう。
審査委員長も小沢の顔だけは知っているらしい。
驚いた表情で小沢に頭を下げた。
そして小沢が、超大物たちを紹介すると、更に聴衆が湧いた。
合唱界にとって、全く別の世界の音楽界の超大物たちが聴きにきていることで、驚いてしまったらしい。
しかも緊張する合唱界の重鎮たちを横目に小沢は指揮台にのぼってしまう。
ニューヨークメトロポリタンのプリマドンナがソプラノに、他の超大物たちはそれぞれのパートに入った。
光は、にっこりと笑い、ピアノの前に座った。
「あ・・・アヴェ・ヴェルム・コルプス・・・」華奈
「いや・・・光君もいいけど、さすが小沢先生、パワーが違う」由香利
「あのニューヨークのソプラノ、凄い!」ルシェール
「これで、合唱界も多少は目を開いてくれるといいんだけど」
晃子は、震えた顔で見つめる合唱界の重鎮たちと、圧倒される他の高校の合唱部の学生たちを見ていた。




