第22話そしてお弁当は山のように
教室の光を除く全員があっけにとられている。
あの美少女由香利が軟弱な光に「お弁当」を作り、渡しに来たのである。
どちらかと言えば、気位が高く人を寄せ付けない由香利が・・・である。
男子学生たちは、羨望の目で光を見ている。
女子学生たちは、嫉妬と困惑の入り混じったような目で光を見ている。
「ねえ・・・光君」
隣の由紀が光に声をかける。
「え?」
例によって気のない光の返事である。
「え?じゃなくて、大変なことだよ」
由紀の言葉がちょっとキツい。
「大変って何が?どういうわけかお弁当もらったけれど」
光はぼんやりと応えた。
「あの由香利さんってね、キャプテンの彼女なの」由紀
「ふぅーん・・・」
光は何が大変なのか、まだわからない。
「今日、ボクシング部に行くの?」由紀
「あ、そうだったっけ・・・」
光はやっと思い出した。
「行かないほうがいいかも」由紀
「どうして?」
光は、まだ意味がわからない。
「キャプテンって国体有望選手だよ、練習なんて言って、何を光君にしてくるかわからないよ、危ないよ」由紀
「そんなことないよ、大丈夫だよ」
光は何も心配する様子がない。
「光君知らないの?キャプテンって、ものすごく嫉妬深くてね、由香利さんと話をした男子学生って、みんな怪我させられるよ」由紀
「怪我って?そんなことしたら傷害事件でしょ、出来るわけない」光
「あのね、それが表沙汰にならないのが、この学校」
「何しろ国体有望選手だし、練習中の事故で済まされているの、今年になってからは、そういう事故はないけれど」由紀
「だったら怪我しないようにすればいいんだよね」光
「うん、わかった?行かないよね」
由紀は光がボクシング部へ行かないと判断した。
しかし、光の答えは異なっていた。
「いや、行くかなあ、その国体有望選手のボクシングってどんなかな。見てみたい」
光は、何も心配する素振りがない。
「うーん、しょうがないなあ・・・でも危なくなったら逃げてね、みんなで手伝うから」由紀は意外なことを言う。
「え?意味わからないよ」
光は由紀の言うことがさっぱりわからない。
「昨日ね、クラスの女子全員で相談したの。光君をボクシング部の暴力から救おうと」
「ボクシング部の顧問もキャプテンも威張っていて大嫌いだし」
「光君のこと、みんな心配で仕方がないし」
由紀は真剣な顔になった。
「・・・うん・・・ありがとう・・・でも大丈夫」
光は首をかしげながら応えた。
「でね・・・それから別の話・・・」
由紀の顔が赤くなった。
「私も光君にお弁当を作って来たの・・・」由紀
「え?由紀さんも?」
光としては、そんなことはは全く予想していない。
「ところが、みんな作ってきたらしくて・・・」
由紀が周りの女子学生たちを見回した。
周囲の女子学生も二人の会話を聞いていたようで、一斉に光と由紀を見てくる。
どうやらクラスの女子学生全員が、光のためにお弁当を余計に作って来たようである。
「うーん・・・」
光は、まったくよくわからない。
そして光がよくわからない時の言葉が出た。
「まあ、いいや、たくさん食べ物があるから、みんなで食べよう」
光の言葉で、クラス全員が拍子抜けである。




