第218話合唱コンクール(1)
「え・・・音楽のことだからいいかなあと・・・」
春奈も圭子の低い声には、少し警戒をする。
「うん、阿修羅も聞いているはず、だから・・・」圭子
「・・・はい・・・」春奈
「とにかく闘いとか、勝負事になると阿修羅は何等かの力を出すはず」圭子
「・・・となると警戒?」春奈
「うーん、まあ高校生レベルでは、どこまで本気になるのかわからないけれど、問題は少しでも怒らせると・・・」圭子
「問題が発生しますかね」春奈
「ああ、光君は大丈夫だけれど、おそらく相手がね・・・」圭子
「立ち上がれなくなるとか・・・」春奈
「うん、その程度にしてもらわないとね・・・」
圭子は何か考えているようだ。
その後、楓とも話をした。
「よく最後まで立っていられた」
「やっぱり私のお手製の薬が効いたんだ」
楓も安心したようである。
「それから、他の人にもなるべく同じ成分で飲んでもらっている」
「それでも、少しだけスポーツドリンク感覚にした、光君も飲みたいって言ったけど却下したよ」
と、春奈が状況を説明すると
「うん、私もスポーツドリンク風にして飲んでいる」
ところが、楓から意外な答えが返って来た。
「じゃあ、どうして光君だけ?」
これは、春奈も気になった。
「いや、私に黙って鎌倉に行ったから、お仕置きしている」
楓は、ケラケラと高笑いである。
さて、学園の軽音楽部というよりは音楽系のクラブのジョイントコンサートも終わり、次は合唱コンクールとなった。
光の指揮による練習も順調、時折は編曲者の小沢自ら指揮をとることもあり、本番へ向けた準備は整っている。
「ところでさ、たまには・・・」
夜中に光のベッドに阿修羅が立った。
「・・・格闘でもないのに?」
不思議そうな声を出す僧侶は、おそらく地蔵である。
「うん、変な権威主義って大嫌いなのさ」阿修羅
「ああ、それはよくわかる、大寺に安置されているからいい仏ではない、道端の雨に濡れた石仏がどれほど人を癒してきたか・・・」地蔵
「うん、どこにも真実があり、美しさがある」阿修羅
「心の目が曇った輩に、相手を判じることは出来ない」地蔵
「何しろ、勝負なんて言葉を聞いてしまったしなあ・・」阿修羅
「・・・全く、その言葉を聞いた阿修羅に勝つものは、いない」
地蔵から含み笑いが漏れている。
合唱コンクールの当日となった。
光は相変わらず亀で、春奈に叱られながら身支度を整えて会場に向かおうと玄関を出ると、「春奈さんだけだと心配」などという、意味不明な理由で、華奈が玄関の前に待っていた。
「どうして?華奈ちゃんのほうが不安じゃない」春奈
「いや、春奈さんは、由紀さんに甘い」華奈
「・・・意味が全く分からない」春奈
「それはルシェールも同意見、ルシェールは既に会場で待っています」華奈
「なんか、本当にあなたたちって、おかしくない?そもそも合唱コンクールでしょ?どうして由紀さんは、単なる合唱部員でしょ」春奈
「・・・いや、将来の妻として、監視するのは当たり前」華奈
もはや意味不明の言葉連発である。
春奈は、付き合わないことにした。
ただ、光の歩く雰囲気が、二人の話を聞いていないにしても、少しいつもと違う。
「ねえ、華奈ちゃん」
春奈の声が少し震えた。
「うん、今日の光さん?」
華奈も、察したようだ。
「違うよね、いつもみたいな、ボンヤリでない」春奈
「・・・おそらく・・・この雰囲気は」華奈
「戦闘モードかな」春奈
「ちょっと怖い雰囲気があるな」華奈
「うん、じゃあ終わった後は任せて、きっとヘロヘロになる」春奈
「・・・意味不明・・・」華奈
「えへへ、私は癒しの巫女だもの、ふふ・・・」春奈
「・・・う・・・私は導きの巫女って・・・単なる旗振り?」華奈
「他に何かできるの?」春奈
「・・・可愛いだけかな・・・」
・・・相変わらず華奈の発想は理解しがたい。
コンクール会場に着くと、既に合唱部は全員見える。
祥子先生が光を手招きしている。
「さあ、目一杯勝負ね」
春奈が声をかけると、光の目が光った。
そして、祥子先生に向かって歩いていく。
「ふう・・・始まっちゃった」春奈
「少し怖いけれど、楽しみ、何が起こるのやら・・・」
華奈は、楽しそうである。
ルシェールも春奈の隣に立った。
「春奈さん、光さんの背中に炎が見えるんですが」
ルシェールは、少し笑っている。
「うん、何かしでかしそうね」
春奈も期待が高まっている。




