第213話突然すき焼きパーティー?
美味しい珈琲を飲んだ後は、神保町駅から都営新宿線経由で帰った。
理由は、単に光が御茶ノ水駅までの坂道をのぼるのが面倒であったためであるけれど、もともと奈良町出身で都内の地下鉄などほとんど理解がない女性陣には、わからないと光が判断したのである。
「へえ、便利だね、このまま明大前に行けるんだ」春奈
「わからないから、どうでもいいや、光さんとなら、どこまでも」華奈
「うん、家の前までね、あとは自分で帰って」楓
「・・・春奈さんに性格の悪さが似てきませんか?」華奈
「いや、光君とは積もる話が」楓
「ああ、私のお母さんが楓ちゃんと積もる話があるって言っていたから、楓ちゃんが私の家に泊まるってどうですか?私が光さんの家に泊まります」華奈
「やだ、華奈ちゃんの部屋なんて、小学生みたいだもの、お人形だらけで」楓
「じゃあ、漁夫の利で私が泊まるかな、料理は任せて」ルシェール
「・・・料理・・・」華奈
「・・・えーっと・・・」楓
攻防戦の最中に、キツイ言葉を言われた二人は、下を向いてしまう。
ただ、春奈は年下三人組の攻防戦など何も聞いていない。
それよりも、何故この段階で楓が東京まで出て来たのかを考えていた。
神田明神前で、漬物を買うぐらいでは、楓が上京する理由はない。
それも、奈良の圭子が何等かの意図があるのか、もしかすると「危険」に対処する必要を感じて、楓を「つかわした」と考えている。
「でも、そもそも、この強い結界が張られている状態で何が出来るのか」
春奈としても、よくわからない。
「それとも今すぐにではなくて、後に備えて何かやることとか準備があってのことかな」
春奈は、楓の顔をみた。
楓も春奈の顔を見ている。
そして楓が頷いた。
「・・・そうか・・・楓ちゃん、薬師の巫女か・・・」
「そうすると、何か作るのかなあ」
「でも本番のクリスマスコンサートまで二か月もある、こんな前から?」
「それほど危険なのかな、今度は・・・」
春奈の背筋がぶるっと震えた。
楓の顔も真剣になっている。
井の頭線の駅につき、ルシェールは華奈の家まで送った。
多少華奈が抵抗したけれど、楓より年長者三人の圧力に負けてしまったのである。
華奈の家の前では美紀が待っていた。
華奈にとって、鬼より怖い母の美紀である。
手招きされれば、華奈とて、従う以外はない。
華奈は既に涙目になっている。
「ところで、何で泣いているの?」美紀
「みんなが意地悪して、私と光さんを引きはがそうとする」華奈
「え?何言っているの?」ルシェール
「何を勘違いしているのさ、早くこの袋持って!重たいの」美紀
「え?母さんもルシェールも何言っているの?」
華奈は、二人の言うことが全く理解できない。
「あのね、さっきメールしたの、読んでないの?」美紀
「・・・うん・・・」華奈
「食べ過ぎて寝ていましたし」ルシェール
「そんなんだから引きはがされるの」美紀
「・・・いいから、ちゃんと言って、意味がわからないし・・・」華奈
「あのね、今から光君の家で、すき焼きするの」美紀
「だから華奈ちゃん、お肉持ってってこと」ルシェール
「ほんと、世話が焼ける、あなた今日はお肉抜き」美紀
「うるさい!早く行く!」
華奈は途端に元気になった。
歩く足取りも二倍の速さ。
「まあ、元気だけが取り得だなあ」美紀
「でも、ピカピカに光っています」ルシェール
「今日のすき焼きは、圭子さんと美智子さんの差し金さ、お肉はナタリーが冷凍で私の家に送ってくれたの」美紀
「へえ・・・なんか見抜かれている」ルシェール
「おそらく、神田で食べたところで、天丼程度、もっともっと力をつけさせなくちゃって」美紀
「うん、天丼も美味しかったけれど」ルシェール
「でも、久しぶりに光君と食事かあ、うれしいな」美紀
「あの家広いから、たくさん呼んでパーティーしたいですね」ルシェール
「うん、昔はやったんだよ、全員で集まってね」美紀
「へえ・・・知らなかった」ルシェール
「とにかく台所も使いやすいし、さすが史さんの設計」美紀
「そんな素晴らしい台所で、コンビニ食生活だったんだ・・・」ルシェール
「うん、私も菜穂子さんの写真見たいし、謝らないと」
美紀は少し涙ぐんだ。
「クリスマスはコンサートでしょうがないけど、お正月は・・・」ルシェール
「うん、大パーティーしたい・・・けれど・・・」美紀
「・・・何か?」ルシェール
「おそらくクリスマスはすごいことになる・・・光君の身体が持つかな」
美紀の顔が真剣である。




