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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
212/419

第212話御茶ノ水散歩

再び聖橋を渡って御茶ノ水の街へ。

「へえ、丸善があるんだ」楓

「学生さんとかサラリーマンが多い」華奈

「これが駿河台って言うんだ」楓

「うん、駿河の国って言うか、今の静岡県かな、そこの出身者が住んだ街らしい」

光にしては、まともな説明をしている。

しかし、あまりにも当たり前の説明で、誰も聞いていない。


「へえ、これが明治大学?かっこいいけど」楓

「うん、志願者数が国内でもトップクラスさ」春奈

「昔は、バンカラな学校で質実剛健そのものだったらしい」光


「じゃあ、光さんとは、全然合わない」

華奈は、光の実態をよくわかっている。

ただ、その指摘は全員が納得する。

どう考えても光が六大学野球の応援や、重戦車軍団の汗臭いラグビーを応援するとは思えない。


駿河台の坂を少し下ると、靖国通りが見えて来た。

「うん、通りが案外広いなあ」楓

「あそこが三省堂?ビルになっている」華奈

横断歩道を渡り、三省堂書店に入った。


「へえ、面白い雑貨があるよ」春奈

「うん、なかなか面白い」ルシェール

「なかなかセンスがあるなあ」華奈

「本は、あと回しでいいや、どうせ読まないし」楓

「どうせでなくても読まないし」春奈

「だって少女マンガ買う雰囲気でない」華奈

「料理の本は?」ルシェール

「・・・人の弱みを・・・」華奈

結局、三省堂に入っても本を探すことはなかった。

ただ、雑貨を見て通り抜けをしただけである。


「ねえ、光君、おなかすかない?」

春奈は、母美智子から言われていたことを思い出した。

神田に行ったら、天丼とかと言う話である。


「うーん・・・ここらへんはねえ・・・」

光も考えている。


「うん、すぐそこに老舗の天丼屋さんがあるし、ちょっと歩くとロシア料理店、中華系もたくさんある。ここスズラン通りっていうんだけど」

「もうちょっとだけ小川町の方角に歩くと、立ち食いのお寿司屋さんとか、本当に老舗の蕎麦屋で神田の藪蕎麦がある」

「もう一回靖国通りを戻ると、昔ながらの東京風ラーメンとか、洋食屋さんとか、カレー店とかある、とにかく食べるところには苦労しないなあ」

光にしては、食べる場所がスラスラと出てくる。


「光君ね、おなかが減っている時に、どうしていろいろ、悩ませるようなこというの」楓

「ほんと、最近性格悪くなりましたか?」ルシェール

「ねえ、私は若いから、ある程度食べても消化できるけれど・・・他の方々は・・・」

華奈は、華奈なりに反撃を開始した。


「・・・華奈ちゃんって、結局、若さと食欲と消化能力しかないの?」春奈

「食べ過ぎるとニキビとか出るとか」ルシェール

「おなかぷっくりだとねえ・・・他はねえ・・・」楓

せっかくの華奈の反撃も年増三人組に、あっさりと返されてしまう。


「でも、天ぷらのあがるいい匂いがしてきました」光

「うん、あそこね、近いからいいや」楓

「結局歩くの面倒とか」春奈

「でも、食べたくなってきた」ルシェール

結局、天ぷらの老舗はちまきに入った。


「うん、この甘辛いタレがいいな」楓

「海老も大きいし、奈良のとは違う」華奈

「けっこう、文士さん、江戸川乱歩さんとか、井伏鱒二さんとか、いろんなお方がごひいきに」春奈は、文士たちのサインを見ている。


「キスの天ぷらが好き、ホコホコして」ルシェール

「お母さんの天ぷらより美味しい」華奈

「あとで連絡しておくね」春奈

「・・・裏切もの」華奈


天丼でお腹いっぱいとなった一行は、再び駿河台をのぼり、珈琲を飲むことになった。

珈琲店は、狭い急な階段を登った二階にある。

「ここも、三十五年ぐらいかな、創業当時から全然変えていないんだって」光


「黒いテーブルも、味があるし」楓

「壁に並んだたくさんのカップから選べるの」光

「でも、珈琲美味しい、際立っている」春奈

「ねえ、また私と一緒に来ましょう、光君」ルシェール

「うん、また来たいな」

不用意に頷いてしまう光である。

その後、春奈と楓から足を蹴飛ばされた。

華奈は、残念ながら足が届かなかった。

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