第21話由香里の登場、そしてお弁当
結局光は、放課後まっすぐ帰宅した。
光としては、何より豪雨の中濡れきった洗濯物をなんとかしなくてはならない。
取り込むのも面倒なのだが、そのままにはしておけない。
明日着る服も豪雨の中にあるからである。
光は、まるで女子学生に囲まれるように駅まで急いだ。
もちろん傘など持ち合わせが無いので、春奈先生に借りた。
傘を差しだす女子学生が多いだろうと言う、春奈先生の配慮である。
つまり誰と同じ傘に入るか、後で校内の問題になっても困るという配慮であった。
電車の車内、駅からの帰路でも、女性たちから異常に注目を集めるが光は全く気にしない。
そんな状態の中、家に戻った。
豪雨の中、びしょびしょの洗濯物を取り込み、乾燥機に放り込む。
天気予報を見なかった自分自身のうかつさに、落胆する。
そして、出るのはため息ばかりの状態になる。
「全く・・・奈良に行ってからロクなことが無い」
「気にはしてないけれど、女子学生とか女性がじろじろ見るし」
「ボクシング部には絡まれるし」
「洗濯物も濡れちゃって面倒だし・・・」
洗濯物が濡れたのは奈良が理由ではないが、光は「面倒くさいついで」に理由にしてしまう。
「夕ご飯も面倒・・・」
既に洗濯物を取り込むだけで疲れてしまった。
冷蔵庫を開けても、奈良の家でもらった漬物ぐらいしかない。
ごはんを炊くのも面倒で、豪雨の中、コンビニに行くのも気が引ける。
結局、風呂だけは入ってそのまま眠ってしまった。
翌朝になった。
当然食べるものは何もない。
洗顔、歯磨きだけして登校する。
昨日ボクシング部に行くといった約束など、何も覚えていない。
同じように女性の注目を集めるけれど、見向きもしない。
教室に入っても同じである。
ただ、光は同じ状態であるが、女子学生たちに変化があった。
まず、光が座ると、三年生の由香利が教室に入って来た。
由香利が光に声をかけた。
「光君、おはよう」由香利
「・・・あ、はい・・おはようございます」
光は、いつもの通り弱々しい挨拶である。
「昨日は大変だったね。ボクシング部は乱暴だから」由香利
「ええ、いえ、たいしたことはないです」
光は由香利からそんな言葉をかけられるなど、予想していなかった。
何しろ由香利は三年生、そして校内でも五本の指に入る美少女である。
少しドキドキしている。
「でね、またあんな騒動になっても困るので・・・」
今度は由香利が顔を赤くした。
「・・・はい」
光は由香利の顔が赤い理由が、よくわからない。
昨日の豪雨の影響で風邪を引いたかなと思う程度である。
「これ、お昼に食べて」
突然、由香利が光に「お弁当」を差し出した。
由香利の顔は、ますます赤くなった。
「え?」
光は全く意味がわからない。
今日もお昼は、いつものフルーツクリームサンド百三十円と決めていたからである。
それなのに、突然校内有数の美少女由香利が、自分に「お弁当」を差し出したのである。
「あっ・・・はい、ありがとうございます」
光は、驚いたけれど、断れる状態ではないことに気が付いた。
周囲の女子学生を含め、男子学生までが光と由香利のやり取りを見ているのである。
「ここで恥をかかせてはいけない」
光は由香利の気持ちを考え、素直に「お弁当」を受け取った。
「わぁ!うれしい、しっかり食べてね!」
「また後でお話しようね!」
由香利は、満面の笑みを浮かべて教室を出て行った。




