第207話文化祭(2)
「まさか、光君がクラプトンとか、ダイアナ・ロスなんて考えなかった」春奈
「いや、みんな古い曲だけど、光君の家でやったこともあるし、その頃は小さかったけどね」小沢は懐かしそうな顔をする。
「しかし、盛り上がり方が半端じゃないなあ」校長も驚いている。
「うん・・・後で倒れなきゃいいけど・・・」
春奈は、心配するけれど、まだ三曲目、大丈夫そうに見える。
軽音楽部は、アンコールがかかったけれど、時間の都合と、この後のプログラムにも出演するということで、なんとか次の合唱部に進むことが出来た。
合唱部の出番となった。
曲目としては、二曲の予定。
言葉通りに、軽音楽部が伴奏をつとめている。
これも、小沢の考えである。
一曲目はジャズ風にアレンジしたレイ・チャールズで有名な「愛さずにはいられない」
「うーん・・・なんか、しみる、ハーモニーが厚い」
「久保田さんの声もなかなか・・・」
「あれ、晃子さん、歌も上手・・・」
「カントリー歌手も出来るんだ」
「なんか、すごくほっとした」
学生から、様々な喜ぶ声が聞こえてくる。
校長も本当に満足そうな顔になる。
「もう、ここまで来たら、軽音楽部のコンサートに合唱部も音楽部も出さないと、学生が納得しない」
「そうでしょう・・・ここまで上手なら・・・十分です」
「アレンジも、もう少し細工して見たくなった」
小沢も頷いている。
「え?いいんですか?」
校長としても、世界の大指揮者小沢から、そんな言葉を聞くとは考えていなかった。
「いや、ここの音楽部系って面白くてね、これは私の趣味としてやりたくなりました」小沢
「へえ・・・ありがたいことで、お礼のしようもなく」校長
「もう一つ目的がありましてね・・・」小沢
「目的といいますと?」
校長は小沢の顔を見た。
「なんとか、いろんな曲をやらせて、光君を育てたくなりました」
小沢は真面目な顔をしている。
「・・・はい・・・古くからのお知り合いとか」校長
「はい、あの子の母が亡くなるまでは、本当によく」小沢
「光君には、いろいろ驚かされます」校長
「ただ・・・母が亡くなった後、ほとんど一人で家にいて・・・その失われた心の時間が長い、閉じ込めていた心を、解き放ってあげたい」小沢
「はい、そのこと自体は、私もよくわかります」
校長も、深く頷いた。
二曲目は、「シカゴの素直になれなくて」
「うん、ハーモニーが厚い」校長
「光君のピアノが少し重ためになっている、あれはあれで、音楽にどっしりとした感じを与えている」小沢
「光君は歌わないのかな、いい声なのに」校長
「いや、時々引っ込み思案で、あれ程人が多いと歌わないと思うね」小沢
「うん、前に出したいなあ、ピアノなら祥子先生でいいんだから」校長
「校長先生・・・」
小沢が校長の顔を見た。
「え、何でしょうか」
校長も小沢の真意を読み取れない。
「私もステージに上がりたくなりました」
小沢は、笑っている。
校長は、それこそ腰を抜かすほど、驚いている。
文化祭における音楽プログラムのラストとして音楽部の登場となった。
音楽部の用意している曲は、モーツァルトのフィガロの結婚のみ、アンコールがかかった場合に、軽音楽部が合唱部にエキストラとして加わり、同じくモーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスを演奏する予定になっている。
また、音楽部はオーケストラなので、準備を含めて十五分間の休憩となる。
「大丈夫?疲れていない?」
春奈は、ステージの袖口に立つ光に心配をして声をかけた。
ただ、心配なのは春奈だけではない。
合唱部の由紀や、音楽部の華奈、祥子先生、ヴァイオリニストの晃子や小沢も、光を囲んで心配そうな顔をしている。
「うん、確かに顔が蒼くなっている」
校長も、さすがに軽音楽部のステージからの連続出演で光が疲れていると思う。
ただ、何らかの手段を考えることも難しい。
「こういう時は・・・」
春奈も思案した。
何かのカンフル剤が必要だと思った。
「楓ちゃんの、お叱りの声」
「ルシェールのサヴァラン」
「私の柿の葉寿司はないし・・・」
様々考えるけれど、なかなか思いつかない。
そんなことを考えていると、光がスマホを見ている。




