第205話春奈と、その母美智子
光が寝た後、春奈は奈良の圭子に連絡を取った。
「へえ、あの小沢さんがねえ・・・」
圭子も驚いていた。
「叔母さんの名前も知っていましたよ」春奈
「うん、そりゃそうさ、史さんを囲んで仲間だったもの、それは若い頃楽しかったなあ・・・」
圭子は意外なことを言う。
「史さんって、光君のお父さんで今は北海道にってことですが」春奈
「うん、美術関係でね、彫刻専門、今は北海道の森にこもってのカツラ材とアイヌ彫刻を研究しているらしい」
圭子は、あまりよくわからないようだ。
「うーん、知らなかったなあ・・・」春奈
「そうねえ、史さんは料理とか人を読んでもてなすことが好き、菜穂子さんはどちらかというと、大人しいけれど芯が強い」
「よく奈良でも東京の杉並の家でも、パーティーしたもの」
「とにかく史さんが中心にいると、みんな元気になる、そんな感じかなあ」
「多少自分勝手で、ほとんど家にいなくてさ、今はずっと北海道だけど、必ず何か仕留めて帰って来ると思う、みんなそれを待っているの」
圭子はそういうけれど、春奈にとっては、光をほったらかしにしている無責任な父親としか思えない。
「光君は、どちらかといえば、菜穂子さん似、弱そうで芯は強いはず、だから、それほど心配はいらないんだけど・・・ただ、まだ思春期だし、何をしでかすかわからない時期、だから、春奈ちゃんがいてくれて、とっても助かるの」圭子
「はい、出来る限り・・・というか、今の情勢では絶対に支えていないといけませんね」春奈
「うん、私もなるべく読んでみるけれど、一気にカタをつけるということは、それだけ相手の圧力も強いってことになるね」
圭子の声が低くなった。
「少し心配です・・・」
春奈の顔が蒼くなった。
「いや、阿修羅が出ている、出現している以上は、負けることはないよ、お地蔵様もいるしさ」
「問題は、その闘いの後の光君の身体が、どうなっているのかということ」
「闘いまでは、みんなで支えるからいいんだけど、その後、全精力を使い果たしていると危ないなあ・・・」
圭子も不安な声を出した。
「体力の他にも?」春奈
「うん、気力も鍛えないと」
圭子は声を低くした。
圭子と電話が終わった後、春奈は奈良に住む母美智子に電話をかけた。
「ねえねえ・・・母さん」春奈
「なんだい、うれしそうに」美智子
「さっきね、光君に優しいとか、一緒にいて安心って言われちゃった、ねえ、すごいでしょ」
春奈としては、母美智子に、たまにはほめてもらいたかったのである。
しかし、返事は無残なものである。
「あなたね、今頃そんなこと言われて、喜んでいるの?」
「全く、気が利かないねえ・・・」
「あのね、今光君の周りにいる女性で、あなたが一番大人なの、だから一緒にいてもらっているの、わかる?」
「ルシェールだって良かったんだよ、まあ、華奈ちゃんは無理だけどさ」
「鎌倉だって、光君には負担だったかもしれない」
「ニケが強引な人だから食べさせることが出来たけど、あなたたちじゃ、無理さ」
「そもそもね、確かに精進料理って美味しいけれど、大人が食べるのが普通」
「若い人は、若い人なりにたんぱく質とか糖分を仕込まないとね」
「だいたい、今から侘び寂びなんて言っていちゃだめさ、そこのところを、あなた保健師もやっているんだから、指導しないといけない」
「もっともっと、攻撃的な面を出させるくらいじゃないと、光君倒れるよ」
「若い男の子だもの、どんぶり飯三杯ぐらい、平気で食べさせないと・・・」
もう、凄まじい「お叱り」の連続攻撃である。
「何もそこまで・・・」
春奈としては、私だって、目一杯やっていると言いたかったけれど、あまりの母美智子の言葉の強さに反発も何も出来ない。
「取りあえずね、神田とか下町に行くんだったら・・・」美智子
「・・・うん・・・」春奈
「江戸の名物って言っても蕎麦みたいな軽いのじゃダメだよ」美智子
「というと?」春奈
「がっつり天丼とか、江戸前の寿司とか、すき焼きの大盛とかがいいなあ」美智子
「へえ・・・光君に言ってみる」春奈
「おそらく、光君の頭は神田の蕎麦だと思う、でもそれはおやつにして」美智子
「うん・・・わかった、まずは天ぷら食べる」春奈
「よし、それでいい」
ようやく美智子は納得したが、春奈は、ついでに佃煮セットの発送を厳命されてしまった。
結局、どうにも母美智子には負ける春奈であった。




