第203話光の家と小沢氏の関係
春奈も、同じ家に帰るので、一緒の車になる。
ただ、三人が車に乗り込む寸前、光は華奈がうつむいて帰る姿を見つけた。
「あ、華奈ちゃん、泣いている」光
「ただ、声をかけられなくて、すねているだけかも」春奈
「ああ、あの子、美紀さんの娘さん?」
小沢が華奈を見て突然、意外なことを言った。
「え?小沢先生、美紀さんを御存じで?」
春奈は不思議に思う。
「ああ、知っているも何も、昔からだもの、美紀さんは私の音大の宗教史の先生だし」
「旦那さんは、ヘブライ語の授業も受け持ってもらっている、他の大学と掛け持ちで、なかなかヘブライ語をわかる先生って少なくてさ」
小沢の口から、とんでもない言葉が飛び出した。
「うん、乗ってもらいましょう」
光は華奈のところまで歩いて行く。
何か話をしている。
「素直に乗りたいって言えばいいのに、あんなところで、すねたりして」春奈
「まあ、それが若い人たちの、恋心さ、なかなか素直に出来ないのが可愛いな」小沢
「でも華奈ちゃん、笑った」春奈
「あれ、腕まで組んだ」小沢
「場をわきまえない・・・全く・・・」春奈
「何か、見ていて面白いなあ・・・将来が楽しみだ」小沢
「え?光君と華奈ちゃんの将来ってことですか?」
春奈は、少し焦った。
もしかして光と華奈が、結ばれるとなると、それはそれで不安なのである。
「ああ、どうなるかわからないけれど、あの二人だと・・・」小沢
「・・・どうなるんでしょうか?」春奈
「光君が、まあ、振り回されているだけかもしれない、それはそれで大変だ」小沢
「さすが・・・よく見抜いてらっしゃる」
春奈は、小沢の分析に感心した。
ほどなくして、華奈が光と車に乗り込んできた。
しかも華奈は腕を組んだまま、後部座席の真ん中に座った。
これでは春奈は、気に入らない。
光に近寄ることができない、大人げないとは思うが、どうにも気にいらないのである。
「全く・・・これって計算づくだ、きっと」春奈
華奈は、ニンマリと笑っている。
光の家につくと、小沢はまず、ピアノの前に立った。
そしてピアノの上に置いてある光の母菜穂子の写真に手を合わせた。
少し涙ぐんでいる。
時間も少し長い、何か話をしているのか、ブツブツとつぶやいている。
しばらくして、小沢は光と春奈、華奈に向き直った。
「ああ、葬式以来さ、菜穂子さんに逢ったのは、懐かしくてね」
小沢はまだ、涙ぐんでいる。
「この家には、何度も?」
春奈も少し感じることがあった。
小沢がピアノの前に進む足取りが、本当に自然だったからである。
「うん、史さんと菜穂子さんに逢いにさ、よく来たよ」
「ワインとかウィスキーとかいろいろ飲んだ」
「菜穂子さんがピアノ弾いて、僕がヴァイオリン弾いて」
小沢は、懐かしそうな顔をする。
「その時、光さんは?」
華奈が尋ねた。
華奈としても、興味深いのである。
「ああ、よく歌ってもらった、きれいなボーイソプラノでね」
「よく笑う子だったね」
「いつも、僕が来るとニコニコしていて、音楽が不調な時は、すごく慰められた」
またしても小沢から、春奈と華奈が全く知らない光の子供時代のことを聞くことになった。
少なくとも奈良や学園内で見る、いい加減な弱々しい光の姿ではない。
「・・・あ・・・珈琲淹れます・・・」
少し恥ずかしいのか、光はミルに珈琲豆を入れ、挽きだしている。
「ああ、子供の頃よりは、挽く音が大きくなったな、あのミルもずっと使っている」
「史さん、珈琲だけは光君が淹れたのが一番美味しいって言って、どこでも紅茶か緑茶しか飲まなかったなあ」
光の淹れた珈琲を飲んだ後、光は小沢とセッションをした。
光がピアノを弾き、小沢がヴァイオリンを弾いた。
曲はブラームスのヴァイオリンソナタ「雨の歌」やジャズだった。
「うん、もう少し伴奏も強弱とか、テンポをいろいろ考えて・・・」
小沢は時々ヴァイオリンを止めて細かい指導をした。
その指導のたびに、光の顔が輝いている。
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