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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
202/419

第202話小沢先生の指揮指導

「うん、さすが・・・」

祥子は、小沢の指揮から紡ぎ出される音楽に身体全体が震えてしまった。

確かに光の音楽も美しい、若さから導き出される鮮烈さもある。

しかし、この小沢の音楽の力強さは、何か圧倒的なものを感じてしまう。


「うん、ダイナミックスのつけ方が大胆、その対称が音楽をくっきりとさせている」

校長も、感激の様子である。

何より世界の大指揮者小沢の音楽を目の前で聴いているのである。


光も泣き顔はなくなり、一心に小沢の指揮を見て、何かを感じているようだ。

時折、指揮の真似をしたり、頷いている。


「そうか・・・しっかりとした指揮のレッスンもしなかった」

祥子は、基本的なことを思い出した。

光は、そもそも夏のコンサートの二週間前、腰が痛かった祥子の代役で、指揮台に昇ったのが最初。

その時に、思いがけない才能を発見して、そのまま指揮をやらせていただけである。


「指揮法の何も、教えてはいなかった」

祥子も反省するけれど、その前の時点で光の音楽に魅了されてしまった。

目の前で指揮棒を振る小沢は、「二、三指摘すること」があると言う。

祥子は、その指摘の内容と、それをクリアした光の音楽を聴いてみたくなった。

「うん、楽しみが増えた」

祥子の関心は、小沢の紡ぎ出す音楽の素晴らしさから、光の指揮と音楽の成長に移っている。


「ありがとう、本当に振りやすかった」

小沢が指揮台を降りて来た。

にっこりと笑っている。

「いえいえ、恐れ多くも、小沢先生に高校生の音楽部の指揮をしていただくなんて」

校長は本当に恐縮し、小沢に頭を下げた。

祥子も同感らしく、校長同様、頭を下げる。


「いやいや、いい音楽部に仕上がっているよ、何より部員の集中力がすごい」

「日ごろの訓練がなければ、ここまでは出来ない」

「もちろん、個々の技術はまだまだだけど、音楽は技術だけじゃない、何を訴えるかさ」

「よくプロのオーケストラがやるような、ノッペリとした音楽ではない」

小沢は、真面目な顔である。

「プロの音楽家でも、ノッペリなんですか?」

校長も疑問に感じたようだ。


「ああ、そうさ、特にプロ奏者になるとね、自己主張が強くなる、上手になればなるほど」

「音楽そのものよりは、自分の音を聞かせたい奏者が多い」

「周囲の奏者とアンサンブルを壊していることがわからないんだ、指揮をしているとよくわかる」

「それでいて、ちょっと注意をするとむくれて、本当に楽譜通りにしかやらない」

「音符をなぞっているだけ、だから仕上がった音楽もノッペリとなる」

「特に自分の気に入らない指揮者の時にそれをやる」

「特に日本だと、クラシック音楽が深く根付いていないから、そういうのが多いんだ」

案外、小沢は饒舌である。

特に、日本のクラシック音楽界に不満があるようだ。


「そんなものですかねえ・・・」

校長は、未知の業界のため、言われていることそのものが、あまりよくわからない。

ただ、学園の授業においても、「魂の入った講義」を行える教師がどれだけいるのだろうか。

表面上はきれいに整えるが、中身が薄い、あたりさわりのないことを最優先して、本当の意味で生徒の教科に対する探究心を導いているのだろうか、はなはだ疑問である。

校長がそんなことを考えていると、小沢が光を手招きした。

少し身振り手振りをしながら、何かを伝えているようだ。

光も神妙な顔で、頷いている。


「じゃあ、今言ったところ、気をつけて、もう一度振ってごらん」

小沢は光の背中を押した。

ただ、表情は厳しい。


「うん・・・全然変わった」

祥子はまず、光の指揮棒を振る姿の変化に気がついた。


「背筋も真っ直ぐ、胸も張り、腕の動きがきれいになった」

「振り出しも、振りおろしもクッキリしている」

「あの方が弾きやすいし、歌いやすい」

「若いと、身につけるのが速いなあ」

祥子は、その変化に舌を巻いた。


「うん、指揮もクッキリして、ダイナミックスの変化も上手につけていますね」

「音全体の厚みも出て来た」

「さすが、小沢先生ですね」

校長は、小沢に頭を下げた。


「できれば、このまま、どんどん振らせてみたいなあ」

「おそらくね、振れば振るほど、上手くなるタイプさ」

小沢も感心していると、曲が終わり光は指揮台を降りて来た。


「先生、ありがとうございました、勉強になりました」

光は小沢に頭を下げた。


「はい、光君、指揮の指導は初めてなので」

祥子も小沢に頭を下げる。

「・・・初めて?祥子さんは何も指導しなかったの?」

小沢の顔色が変わった。

顔を赤くする祥子の横で、光はキョトンとした顔になった。



練習も終わり、小沢からお願いをされた。

「どうしても、光君の家に行きたいんだけど、いいかな」

小沢が頭を下げた。


「あ・・・はい・・・むさくるしいところですが」

光も驚くけれど、世界の小沢にお願いをされたら、断ることも難しい。

結局小沢のマネージャーの運転する車で、帰ることになった。

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