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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
201/419

第201話春奈の動揺 小沢先生の涙 そして光も

「え?このままだとって?結ばれるかもしれないって?」

ついつい同じ言葉を聞き返すてしまう。

「あはは、可能性の話だよ、確かに今の時点では、一番お似合いだと思うよ」

「おそらく一番気兼ねなく話が出来る相手は、残念ながら春奈ちゃんでも、華奈ちゃんでも、ルシェールでもない、その子さ」

圭子は、春奈も、薄々感づいていることを、サラッと言ってしまう。


「・・・となると・・・」

春奈の心も少し、揺れてしまう。

あの可愛い笑顔が、取られてしまうような寂しい思いも感じる。

「そんなこと思ってもね、仕方がないの」

「まだ決まったわけじゃないしさ、春奈ちゃんだって、そう思っているんでしょ」

「それに、寒川様の力が私たちに加わるほうが、今後にはいいかもしれない」

圭子は言い切ってしまった。

「そんなものですかねえ・・・」

春奈も、そう答える以外に、何もなかった。



翌日、音楽室に約束通り、小沢氏が現れた。

一応、校長室に寄ったのか、校長も一緒である。


「まあ、まさか小沢先生本人がなんて・・・」

祥子を初めとして、音楽部、合唱部、軽音楽部の部員も全員恐縮して、小沢氏を迎えた。


「いや・・・祥子さんと光君に頼まれては、仕方ないさ」

「というより、たまには遊びたくてさ」

小沢氏は、ジーンズのジャケットの上下、フランクな装いである。


「それにさ、光君の指揮も見てみたいんだ」

「この目でね」

小沢氏は光を見た。

しかし、光は何も変わることがない。

少なくとも小沢氏に対しては気後れすることもないようである。


「えーーーっと・・・」

相変わらず弱々しい声であるが、光が小沢に声をかけた。

「うん、なんだい、光君」

小沢が光に尋ねた。


「はい、取りあえず、音楽部も軽音楽部も合唱部も一緒に出来る曲ということで・・・」光

「うん・・・」小沢

「モーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスが、すぐに出来そうなので、どうでしょうか」

光は小沢の顔を見た。


「・・・いいのか?」

何故か小沢は、光に尋ねた。

出来る出来ないの話ではない、小沢の表情も変わっている。

やってもいいのか?という意味に、校長も取った。


「はい、かまいません、大丈夫です」

「では、早速」

光は、何のためらいもなく、指揮台に昇ってしまった。

既に、楽譜は配られている。


「う・・・」

演奏が始まった途端、小沢の口から息が漏れた。

そして腕を組んだ。

「どうして・・・まさか・・・」

「この曲を選ぶなんて・・・」

既に小沢は涙ぐんでいる。


「・・・どうかしましたか?」

校長にとっても、世界の大指揮者小沢の突然の涙は、理解しがたい。

確かに光が今、紡ぎ出している音楽は、天上の音楽のような癒しを感じる。

しかし、涙を流すほどなのか、演奏をしているのは学生、それにほとんど初見、はじめて楽譜を見ている段階なのである。


しかし、小沢は既に顔を覆って泣き出してしまった。

周りの人が声をかけられないほど、泣いてしまっているのである。

「小沢先生」


祥子も驚いている。

祥子とて、小沢は雲の上の存在。

いつも自信に満ち溢れて音大を初めとして、数々のステージを颯爽と歩いている小沢しか見たことがない。

その小沢が、号泣なのである。


「先生」

光が指揮台を降りて来た。

アヴェ・ヴェルム・コルプス自体は長い曲ではない。

号泣状態の小沢氏の手を光が握った。

「この曲、母の葬式以来ですね、先生の顔を見たら、一度聞いてもらいたくて・・・」

光は、優しく小沢に声をかけた。


「うん・・・君の母さん、菜穂子さんの顔が浮かんでさ・・・」

「あの時、僕が指揮したこと覚えていたんだ・・・」

「泣いちゃったよ、ごめんな」

小沢は涙顔ながら、やっと声を出した。

「いや、これは母と僕からのお礼です」

「十分な指揮じゃなかったけれど、どうしても聞いてもらいたくて」

光は、恥ずかしそうな顔をする。


「うん、二、三指摘することはあるけれど、十分な指揮さ」

「何より、モーツァルトが生きているし・・・」

「人の心の合わせ方が上手だ、これは、なかなか身につくものではない」

小沢は満足そうな顔になった。

「一曲振るかな、同じ曲でいいや」

そして、突然、小沢は指揮台に昇ってしまう。

そして、光と同じ曲、アヴェ・ヴェルム・コルプスを振り出したのである。

光も、すぐに泣き出してしまった。

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