第200話光と小沢氏との関係?由紀と光の将来?
「セッションって・・・何ですか?」久保田
「おそらく、ジャズ・・・日本の堅苦しい音大ではやりづらくて、出来ないんだろうね」祥子
「そんなものですか?」
校長も不思議そうな顔をする。
「うん、日本だけです、こんな音楽の枠組みにとらわれている国って」祥子
「へえ・・・」久保田
「アメリカのトップクラスのシカゴ響の人だってロックバンドに出ることもあるし」
「ウィーンフィルの人だって、ジャズはすごく上手」
「クラシックをお高いものに崇め奉るのは、日本とかアジアに多い、ねじ曲がった権威主義だと思います、本当に魂の入った音楽は、必ず人の心を捉えるのでね」
祥子先生は、笑っている。
「光君の指揮とかピアノみたいだね」久保田
「うん、面白いなあ」浜田
「ところで黙っているけれど、光君、何か考えていることあるの?」
確かにずっと黙っている光に校長が声をかけた。
「うーん・・・小沢先生が来るならってね・・・」光
「うん・・・それで何か?」祥子
「一曲ぐらい、指揮してもらうのどうかな、チャリティーで」
光はとんでもないことを言い出した。
小沢氏が指揮をするとなると、一曲数百万かもしれない。
光を除く全員の顔が真っ青になった。
しかし、光はスマホを取り出しメールを打ち始めてしまう。
返信もすぐにあったらしい。
「はい、小沢先生、全てチャリティーでOKとのことです。それから選曲もアレンジも始めているって返事です」
光の言葉に全員が、腰を抜かしている。
「何か、すごいことになってきちゃったね」
学園からの帰り道、春奈が光に話しかける。
「うん、すごいというよりは、楽しみかなあ」
光はうれしそうな顔になっている。
少なくとも寒いから面倒と渋っていた以前の顔は消えている。
「でも、これで華奈ちゃんも落ち着くかな」
春奈は、華奈のしかめっ面を思い出した。
半分以上はいい気味だと思っていたが、それでも同じ奈良町出身、あまり無関心ではいられない。
華奈も音楽部だけでなく、他の部でも光と一緒にいる時間が増える、それで華奈のヤキモチ顔もおさまると考えたのである。
ただ、その時点で由紀の存在は考えなかった。
確かに強敵ではあるが、まだまだ奈良町の血のほうが強いと確信していたのである。
「ねえ、ところでさ、光君」
春奈は、前に考えていたことを思い出した。
「え?何?」
光はキョトンとした顔になる。
春奈は、このキョトンとした顔も好きである。
そのまま頬っぺたをつつきたくなるが、話を続けなければならない。
「あのね、神田とか浅草とか、あまり行ったことないから、案内して」
春奈は光の顔を見た。
相変わらずキョトンとしているが、否定の感じはない。
「へえ・・・下町だけど?」光
「うん、江戸っ子の味って知りたくてさ」春奈
「うーん・・・そうなると・・・浅草は混むから・・・外国人だらけだしさ」光
「うん、光君の好きなところでいい」春奈
「じゃあ、土曜日とかでもいいかな、御茶ノ水を歩きたかった」光
「へえ・・・行ったことない」春奈
「うん、渋谷とか新宿、吉祥寺、青山を含めてそういう場所だけが東京じゃないよ」光
「うん、それが私よくわからないの」春奈
「そうすると・・・考えておきます」
光はニコッと笑った、本当にうれしそうである。
春奈は、あまりの笑顔の輝きに、身体全体が震えてしまった。
夕食も終わり、光が勉強のために部屋に入ったことを見届け、春奈は奈良の圭子に電話をかけた。
今までの経過報告と、今後の相談のためである。
「うん、いろいろあったみたいだね、マルコ神父からも連絡があった」
「それから、校舎入り口の一件は、本当にありがとう」
「音楽部とか、軽音楽部、合唱部のほうは、光君に任せておいて大丈夫だよ、好きなことは熱心だから」
「少し自分から笑うようになったんだったら、心の壁も開いて来たのかなあ」
圭子も見通しの巫女、ある程度のことは見通しているようである。
「ああ、それからすごい神様を味方につけたね、寒川様なんて・・」
圭子が驚いた声を出した。
「へえ、圭子さんもご存じで・・・」
春奈も、少し驚いた。
「うん、私も関東に出るときは必ず拝むの、寒川様はね、とにかく災難除けの力がとても強い」
「ねじ曲がった心とか痛んだ心を、すぐに整えてしまう」
「大らかで強い、素晴らしい神様ですよ」
圭子の声も明るい。
「その寒川様の巫女が、光君の隣の席に座っているんです」
春奈は、少し気になっていることを聞いてみた。
「ああ、やっぱりそうだと思った、上手に守ってもらっているのかな」
「でも、かなりいい線いっている、このままだと結ばれるかもしれない」
圭子は、簡単に「結ばれる」などと言ってしまう。
これには、春奈も少し焦る。




