第2話柿の葉寿司
「え・・・いいんですか?」
小さな白いお皿に置かれたのは、お寿司だった。
しかも東京では珍しい、奈良の名物「柿の葉寿司」である。
「うん、私が作ったの」
春奈先生はニコニコと笑っている。
笑うと本当に可愛らしい、とても二五歳前後とは思えない。
「柿の葉寿司なんて、珍しいのに」光
「へえ、よくすぐにわかったね、東京の人で柿の葉寿司知っている人少ないよ、特に君みたいな若い男の子が」
春奈先生は、驚いている。
「はい、父の実家が奈良にあってよく食べました」
確かに子供の頃から奈良に行くことが多かった。
「へえ、それは知らなかった、奈良のどこ?」
春奈先生は興味深そうな顔になった。
「えっと、奈良町の元興寺の近くで、けっこう古くからの家みたい」
親に連れられて行くだけであり、あまり細かいことはわからない。
「ふーん、それは知らなかったなあ」
春奈先生は、嬉しそうな顔になった。
そしてじっと見つめて来た。
「え?」
どうして見つめられるのか、わからなかった。
しかし、春奈先生の笑顔に何か含みを感じた。
「うん、案外近いところかなあ」
「私の家も元興寺のすぐ近くなの」
「私の家も古いけどね」
「東京の大学に入ったから、ここにいるんだけど」
春奈先生はびっくりするようなことを言っている。
「へえ・・・」
不思議な縁だと思った。
しかし、父の実家と春奈先生の実家が近いだけのことである。
春奈先生と自分は、歳もかなり離れている。
それに、全く弱々しい自分である。
男子学生憧れの春奈先生の話相手としては役不足、この話題はここまでと思った。
「あ・・・食べて・・・」
春奈先生から柿の葉寿司を食べるよう言われた。
「はい、ありがとうございます」
柿の葉寿司を頬張った。
独特の酸味が口の中全体に広がる。
「美味しい?」
春奈先生は、笑っている。
「はい、懐かしい味です」
父の実家の味に近いと思った。
「うん、よかった」
春奈先生は再び嬉しそうな顔をした。
「はい、助かりました」
率直な心である。
確かにお腹が落ち着いた。
「うん、しっかり食べないとね」
春奈先生は、そう言って何故か自分の手帳を見ている。




