第199話光の提案
「何が何でも成果主義は、この日本の悪い癖ですね」
「学生の頃からそうだから、本当の意味で人生を楽しめる大人が育たない」
「周りを見比べて勝っているとか、負けているとか、そんなことばかり」
「一位とか二位とか、学歴とか勤め先とか、肩書は欲しがるけれど、そのために他人を蹴落とし、脚を引っ張る、邪魔をする」
「お金もそうです、お金があるから幸せとは限らない、お金があるから何をするのかが大切なのに・・・成果は成果に過ぎません、その人が幸せかどうかは、別のこと」
校長は、少し難しい顔になった。
「確かにね、お坊さんが悟りを求めて長く厳しい修行をするけれど、悟った後、何をするかなんですね、大切なことは・・・」
春奈も校長に続いた。
「うーん・・・」
そんな話を聞きながら、祥子も半分ぐらいは理解するが、頭を抱えてしまう。
頭の中は文化祭のアンコールと軽音楽部とのジョイント、合唱コンクールのことで、混乱を極めているのである。
フィガロの結婚の練習を終えて、光が指揮台から降りて来た。
祥子先生が、アンコールの対応について相談をかける。
「うーん・・・そうですねえ・・・」
光も少し考えている。
そして、すぐにニコッと笑った。
「わあ・・・こんな可愛い笑顔久しぶり」
祥子は、本当に珍しい光の笑顔に顔を赤くしてしまった。
混乱を極めた頭が、全く軽くなってしまう。
「どうせなら、クリスマスの時に使える曲で、どうですか」光
「というと?」祥子
「子守歌とか、他にはアヴェ・ヴェルム・コルプスとか・・・コーラスの練習になります」
光は、合唱の古典、基本ともいう曲をサラッと言うのである。
「ああ・・・モーツァルトでねえ・・・さすがだなあ・・・」
校長も頷いている。
「うん、それなら、僕だって歌ってみたい」
軽音楽部部長久保田まで、笑っている。
「ああ、お願いです、それやりたい、実は合唱部みんな歌いたかった曲です」
由紀も、うれしそうな顔になった。
「みんな、やる気になったね、私もうれしくなった」
祥子は、身体全体に力を感じた。
何しろ、今まで音楽系統の部活動で、合唱部と軽音楽部と音楽部がコラボするなどということも、発想もなかった。
それぞれが独自に活動、音楽室の取りあいで険悪なムードになったこともある。
「光君が、その関係を直しているのかな」
校長が、祥子の考えていることを言った。
「はい、光君が夏のコンサートで指揮台に昇ってから、この学園の雰囲気が変わりました」
「出来れば、ずっとこの学園にいてもらいたいぐらいです」
軽音楽部部長の久保田は、校長の顔を見た。
「まあ、それは難しい、彼には彼の使命がある。それまではしっかりと支えないと・・・」
校長は再び厳しい顔になった。
音楽部の練習が終わり、音楽部と軽音楽部、合唱部の話し合いがもたれた。
祥子先生の司会で、光と校長が同席している。
「これから、文化祭があるんだけど、音楽関係で音楽部と軽音楽部と合唱部のコラボというのかジョイントの話が持ち上がっているの」祥子
「うん、フィガロはともかく、合唱には加わってみたくてね」軽音楽部部長久保田
「うん、久保田さん、声きれいだし、時々ソロをいれたいくらい」合唱部部長浜田
「じゃあ、軽音楽部と合唱部はOKね、音楽部は問題ない」祥子
「ああ、合唱なら軽音楽部全員、入れてもらってもいい」久保田
「へえ、それなら助かるなあ・・・音に厚みが出る」浜田
「音に厚みを加えるなら、音楽部から合唱部に加わってもいいし」祥子
「祥子先生と音楽部が了解してくれるなら、音楽部から軽音楽部にエキストラが欲しいんですが」久保田
「へえ・・・それって・・・面白いけれど」祥子
「うん、管楽器とか弦楽器が加わると、面白い響きになるし」久保田
「そうだね、日本じゃ少ないけれど、この間マッカートニーのコンサートのバックでオーケストラがいたっけ」浜田
「じゃあ、そういうのも含めて、文化祭とかコンサートまで企画したらどうですか」
「上手に出来ても出来なくても、今後に役立つと思います」
校長からも、OKの言葉が出た。
「ただ、曲のアレンジも急がないとね」祥子
「選曲も含めて、忙しくなる」久保田
「でも、楽しいことやるんだからいいさ」浜田
「指揮とピアノは、光君とか祥子先生に一任します、マネージメントは任せてください」校長
「ああ、そうだ、アレンジは小沢先生に頼もうかな、面白いかも」祥子
「え・・・あの小沢先生?」久保田
「・・・クラシック専門かと・・・」浜田
「まっさか・・・面白いよ、いろんな国でポップス振っているし」
祥子は、既にスマホを取り出し、メールを打ち始めている。
「はい、即了解だってさ、明日来るらしい」
祥子は、にっこりと笑っている。
「うわーーーーっ」久保田
「ねえ・・・どうしよう・・・震えちゃう」浜田
「恐れ多い・・」久保田
「声出なくなっちゃう」浜田
「ああ、セッションしたいって言っている」
祥子が、恐れおののく久保田と浜田を笑って見ている。




