第19話光のあまりにも現実的な答え
「はい」
光は素直に良夫の拳を離した。
良夫は、座り込んでワナワナと震えている。
「どうして、急に殴りつけられたのかわかりません」
光は良夫の顔を見て、顧問に説明をした。
周囲の女子学生たちも頷いている。
「うーん・・・最初から見ていたけれど、光君が悪いわけではないよ」
「急に暴力を振るって悪いのは、良夫だ、私からも謝る」
ボクシング部の顧問が頭を下げた。
しかしキャプテンは光をキツい目で見ている。
どうにも光の動きが信じられないし、気に入らないようだ。
「いえ、それより良夫君の怪我の手当てを」
光は良夫の頭からの出血が気になった。
顧問に良夫を保健室に連れていくよう促す。
「うん、そうだな、本当に申し訳ない」
顧問は、再び頭を下げた。
そして光を見た。
「ところで、光君はボクシングをやったことあるのかい?」顧問
「いえ、全く」光
確かに運動というものは、ボクシング以外でも全くない。
暑い日、寒い日は外にも出ないほどのナマケモノなのである。
「うーん・・・信じられないなあ・・・良夫のストレートを簡単にかわすし、ジャブもかすりもしない」
顧問は首をかしげる。
そして
「一度、練習してみたらどうかなあ、君なら大会に出て上位にいけるかもしれない」
顧問は部室に来るよう誘ってくる。
光はその耳を疑った。
どうして、そんなことを言われるのか理解できないのである。
それでも、必死に顧問の意図を考えた。
しかし、全く運動経験に乏しい光にボクシングを練習させて、大会出場し上位を目指すということなら、はなからシゴキが想定されると察知した。
そうなると、これは光に対しての報復なのかもしれない。
「そうだ、今日の放課後時間があれば来てもらいましょう」
キャプテンが光の顔を見てきた。
「うん、どうかな光君」
顧問も熱心な顔で光を見てくる。
「いや、まず良夫君を保健室に」
光は手をヒラヒラさせて、顧問とキャプテンの誘いを流す。
シゴキや報復などまっぴらごめんである。
「それから、今日は絶対無理です」
光は、二人の誘いを断った。
「え?何か用事があるのか?」
顧問とキャプテンは不思議そうな顔になる。
そもそも、帰宅部で「暇」なはずの光に用事などあるはずが無いと思っている。
「あの、雨が降ってきてしまって、洗濯物を出しっぱなしで・・・一人住まいで・・・明日使う服もありまして・・・」
光はそう言って頭を下げた。
確かに、窓の外は七月特有の豪雨になっている。
「はぁ・・・」
光のあまりにも、「現実的な」答えに、顧問とキャプテンは拍子抜けをしてしまった。




