第188話由紀のお願い
「うーん・・・これについては、完敗」
「でも、少しミニにしたから、そこで反撃の一歩さ」
「何より若さと健康美がある」
華奈も、なんとかして言葉で返したいけれど、口の中にご飯が一杯で、対応が出来ないのである。
それでも三人そろって仲良く登校をする。
「ところでさ、音楽部と軽音楽部って、一日おき?」春奈
「うん」光
「私も軽音楽部で、出たいなあ」華奈
「もう少し、上手になったらね」春奈
「・・・その言い方、直接的過ぎ」華奈
「うん、でもそうかなあ、無理かなあ・・・」光
「・・・光さんまで・・・」
華奈は涙ぐむ。
「光君、優しいけど音楽は厳しいかも」春奈
「その厳しさも、華奈は好きさ」華奈
何を言われても、華奈は決してめげない。
そうこうしていると、学園についた。
いつもの学生たちのざわめきが広がっている。
「ああ、そうだった、最初の話なんだけど、光君」春奈
「え?何ですか?」光
「今日はどっち?」春奈
「ああ、月曜日だから、軽音楽部と思った、校長先生と祥子先生も入って、コンサートの打ち合わせをやるとか」光
「ふーん、楽しみだなあ」春奈
「・・・何とかして、音楽室に入り込まねば・・・」
華奈は、懸命に作戦を考えている。
光がいつもの通り、ヨタヨタとクラスに入ると、早速、隣の席の由紀が話しかけてくる。
「ねえ・・・光君」由紀
「え?」光
「ちょっとお願いがあるんだけどね」
由紀は少し顔を赤らめている。
「何、出来ること?」
光は由紀の顔をじっと見る。
ますます、由紀の顔が赤くなった。
「あのね、文化祭の時にね、合唱部も出るんだけど、ピアノか指揮をお願いしたいの」
由紀は顔を赤らめながらのお願いである。
「へえ・・・由紀さん、合唱部だったんだ、知らなかった」光
「うん、光君、帰宅部だったから知らないと思うけど、実はそうなの」由紀
「うん、いいよ、出来ることならするよ」光
「うん、軽音楽部と音楽部と合唱部の掛け持ちで大変だけど、お願い」由紀
「うん、将来的に音楽で暮らすことになるから、問題ないさ、たまには合唱でもいい」光
「わあ、ありがとう!祥子先生にも言っておく。部員も喜ぶなあ・・・」
由紀は、本当にうれしそうな顔になった。
一限目が終わり、由紀は早速合唱部部長浜田と祥子先生に相談をかけた。
「そうか、その手があったね・・・」
祥子先生は、音楽部顧問と合唱部顧問を兼任している。
特に合唱部は、全国大会にいつも出場するほどの伝統を持っている。
ただ、音楽部のコンサートは夏で、合唱部のコンクールは秋のため、特にスケジュールもかち合わないので、祥子自身には、それほど負担ではなかった。
しかし、将来、音大に進み、音楽の仕事を目指す光にとって、演奏機会を増やすことは、全く問題がないし、むしろ奨励するべきことである。
「あとは、軽音楽部と合唱部の音楽室を使用する順番ぐらいかな」
「音楽部も、考えて見れば、一日おきでなくてもいいかな」
「合唱コンクールの指揮を光君にさせるのも、いいかも」
由紀と浜田からの相談を受けた祥子は、うれしそうな顔になった。
そして、その足で校長に相談をかけた。
「光君も、音楽部、軽音楽部、合唱部と掛け持ちですが、やらせてみたくて」祥子
「ああ、彼がやると言うならば、いいでしょう」
校長も特に否定はしない。
「多少体力が心配ですが、春奈先生にも相談して、ケアをします」祥子
「そうですね、クリスマスのコンサートもありますしね」校長
「校長先生もクリスマスのコンサートには?」祥子
「ああ、行きますよ、せっかくの光君と音楽部の演奏ですし」校長
「あ・・・それでですね、校長先生・・・」祥子
「え?何でしょう」
校長は、不思議そうな顔をする。
「最後にサプライズをしたくて・・・」祥子
「え?サプライズとは?」校長
祥子は、校長の耳元でささやいた。
途端に校長が笑顔になる。
「それでは、よろしくお願いします」
祥子もうれしそうな顔で、校長室を出て行った。
「・・・ふぅ・・・」
一人きりになった校長の笑顔が少し曇った。
「そのサプライズの前に、いささか・・・やっかいな仕事だ」
「・・・今度は本気を出さないと・・・」
校長は、十字架を握りしめている。




