第187話カタリ派虐殺の深刻な話と翌朝
「あの八百年前、十字軍を名乗った虐殺集団の目的は、カタリ派の持つ莫大な財産と土地です」
「虐殺は、そのための手段にすぎません、それはイスラム相手でもビザンティンの教会でも同じです、十字軍は悪魔の意を組んだ集団、とにかく相手を滅ぼし財産と土地を手に入れること」
マルコ神父は顔を下に向けた。
「しかし、偽書の効力では?」
春奈は、身体全体に悪寒を覚えている。
「いや、偽書であっても、一部の効力は発生します、つまり何もしなければ大殺戮程度は起こります」
マルコ神父の身体は震えて来た。
「・・・大殺戮程度・・・そんな軽い表現で?」
春奈の顔がますます蒼くなった。
まだ、それ以上のものがあるだろうか・・・
「春奈さん、ノアの洪水のお話は?」
マルコ神父は話題を変えた。
「はい、大雨が降り続き、それぞれの種のひとつがいだけが船に乗り・・・ですか」春奈
「はい、全ての呪いに関する呪文が成就すれば、再びそれが起こります、ある程度の人類の大殺戮などというレベルではありません」マルコ神父
「・・・しかし、何故日本に向かって、その集団が?」
春奈は、そもそもの疑問を口にした。
「ああ・・・それは奈良の教会の地中深く埋められていた本物の祈祷書を求めてのことと・・・」
「本物の祈祷書が手に入れば、全ての呪文の成就がなされます」マルコ神父
「・・・それを奪いに奈良に?」春奈
「はい、彼らも今までは地蔵様をはじめとした数々の神仏の威で、入り込めなかった」
「多少の小競り合いを仕掛けられましたが、奪われることも無かった」
マルコ神父の顔が真剣である。
「・・・ただ・・・ピエールによると」マルコ神父
「・・・ただ?」春奈
「既に阿修羅様によって、その祈祷書は滅却され光君の身体の中にあります」
「おそらくスペイン系の小物を奈良に送り込んだ時に、勘づかれたのかもしれない」
「あの時の教会の鐘の音が・・・アラム語の聖なる呪文の響きだったとか・・・」
マルコ神父の話はそこで終わった。
マルコ神父は、ピアノの上に置いてある光の母、菜穂子の写真に神妙な顔で十字を切った。
「それでは、また鎌倉にいらしてください」
「何かありましたら、私を呼んでください」
そして、再び愛嬌のある顔に戻り、帰っていった。
「何か大変なことになりそうだ」
マルコ神父を見送ることも出来ず、眠り呆けている光を見ながら春奈は不安にかられている。
「そんなカタリ派の虐殺って・・・もう八百年も前の話かあ・・・」
「よくわからないな」
「いいや、明日ネットで調べてみよう」
春奈も、鎌倉歩きで、かなり疲れていた。
お風呂に入ったぐらいで、そのまま寝てしまった。
朝から、「けたたましい声」が響いて来た。
「おっはようございまーす!」
「朝ですよ!」
「はやく起きましょうね!」
「光さんと春奈さん!」
この、大きな子供声は、華奈以外には考えられない。
「あの声のほうが、よっぽど悪魔だ」
「ああ!もう朝から頭が痛い、お化粧の邪魔」
「合鍵持っているくせに、どうしてインタフォンで騒ぐんだ」
「そういうことをしでかすから、大人たちに叱られるの」
ただ、春奈もすぐに反応が出来なかった。
春奈も、既に二十五歳、朝のメイクの真っ最中なのである。
その春奈の、反応不可能を見越したかのように、玄関のドアが開き、「小娘華奈」は階段を駆け上がっていく。
春奈も、多少反応したが、当然出遅れた。
「う・・・今日はスカート短めだ」
「胸でかなわないから、脚で?」
「でも、まあ、きれいな脚かも」
「私の高校生の時よりは、落ちるな」
春奈が、様々なポイントで華奈の脚を分析していると、案の定、大声が聞こえて来た。
「ああ、光さん、早く!」
「遅れちゃうよ、朝ごはんできていた」
「シンプル極まりない和風だけど」
華奈は、余計なことまで言って大騒ぎをしている。
「玉子焼き一つできないくせに」
「どうせ、ここでも食べる」
「あの娘の分だけ、お子様ランチの旗でも立てちゃうかな」
春奈が必死に、反撃を考えていると、ようやく階段をおりてきた。
「うんうん、しっかり食べてね、ここの朝ごはん美味しいから」
華奈は、さも当然かのように、「二回目」の朝ごはんを、食べている。
「ここの朝ごはん美味しいって、何さ」
春奈もあきれるが、口を開く間もないほどの速さで、華奈は食べている。
隣の光の「亀」食事とは、数倍の違いがある。
「まあ、栄養学的にも、しっかり計算してあるから、よく噛みしめて食べてね、光君」
ご飯を口に詰め込んだまま、反発が出来なくなった華奈を確認して、春奈はようやく反撃を開始した。
「栄養学的に計算」「よく噛みしめて食べる」両方とも、華奈は逆立ちしても、できない分野である。
そもそも、料理そのものに、致命的な欠陥がある華奈にとっては、威力満点の殺し文句、春奈は言い終えて、ニヤリと笑う。




