第186話マルコ神父の蒼い顔
マルコ神父は、ルシェールと華奈をそれぞれの家に送った後、春奈と光の家に入った。
「はい、この家も懐かしく」
マルコ神父は、少し涙ぐみ、ピアノの上の光の母菜穂子の写真をじっと見ている。
「いえいえ・・・そんな昔からのお付き合いとは・・・本当に知らなくて申し訳ありません」
春奈は、紅茶を出しながらマルコ神父に頭を下げた。
「いや・・・こちらこそ、もう少し、足を運べば良かったのですが」
マルコ神父は頭を下げている。
「それで、もう光君、眠そうでしたので、寝かせました」
「それも高校二年生の男子なのに、この家の人なのにお相手も出来ず・・・こちらこそ申し訳ありません」
春奈は、再び頭を下げた。
「いや、光君にしては人を案内し、たくさん歩いたこともありますし・・・それに何しろ・・・阿修羅が乗り移った後は、かなり体力を消耗するはずです、無理させてはいけません」
「ニケには、少し言い過ぎかと注意をしておきました」
マルコ神父は、済まなそうな顔をする。
「いや、ニケさん、奈良で何となく見覚えがあります」
「とにかく元気がよくて、気持ちがいい、光君もニケさんの言葉は必死に聞いて、たくさん食べていたし」春奈
「はい、とにかく体力だけは、つけさせておかないと・・・」マルコ神父
「おぼろげに聞こえたのですが・・・八百年前にとは・・・」光
「ああ、そうですか、心配なさらぬよう、声を落したのですが、申し訳ありません」マルコ神父
「いえいえ・・・阿修羅が力を発揮できないということが気になりまして」光
「はい、阿修羅は、その血脈を継ぐ若い男の子にだけ、乗り移ることができます」
「今は・・・この光君だけで・・・カタリ派の悲劇、今から約八百年前の南仏の地では・・・途絶えておりました・・・といいましょうか、その時点で、男の子が亡くなっていました」
マルコ神父の顔が蒼い。
「しかし、その血脈が何故、ここ日本に?」春奈
「・・・それはかなり古い話ですが、奈良の阿修羅像が造られた時に、阿修羅の一族から一人奈良に移り住みました」
「そして日本の信長の時代に、ルイス・フロイスにより祈祷書が秘密に持ち込まれました」
マルコ神父の目が光っている。
「かなり古く深い話になりそうですね・・・」春奈
「はい、話し出したら、何年もかかりますが、要約すれば全て阿修羅様のお考えになられたことです」
「とにかく、日本の奈良の地は、様々な神仏の結界つまり悪を遮る力が強い、そこで阿修羅の血脈を護らねばならないということが第一」
「その時に移り住んだ阿修羅の一族の一人は、少年、その姿を模した像は阿修羅の思惑通り、今でも立派に護られ、人々に大切にされています」
「祈祷書については、ピエールも驚いておりましたが、ほとんど解読が出来ないアラム語、何故ルイス・フロイスが持ち込んだのか、深い事情は知り得ないということ、これも阿修羅様の深い意図が隠されているとしか言えません」
マルコ神父は難しい顔になり、肩を落とした。
「まずは、もう少しカタリ派の悲劇を習わねばなりませんね」
春奈は、初めて聞く話が多く、理解の程度を超えているようである。
「はい、光君・・・いや、阿修羅はわかっておりますが、何しろ古い話ゆえ」
マルコ神父の顔も真剣である。
「もし、その化け物が来た時に、光君が倒れていたら?」
春奈は不安になった。
「はい、反対呪文により、善男善女の大殺戮が行われます、しかも大殺戮を起こした者がこの世の王者となります」
マルコ神父は断言した。
「祈祷書が偽物とはどういうことでしょう?」
春奈は、そこまで聞き取っていた。
「いや・・・さすが、巫女の感性です」
マルコ神父は驚いた顔になった。
「もともと、祈祷書の偽書は数多くあります、意図的に偽書をその教会の地中深くに埋めたのでしょう、それに、もともと本物を持っていたかどうかも怪しい」
マルコ神父は春奈の顔を見た。
しかし、それでは春奈が、マルコ神父の意図がわからない。




