第184話鎌倉散歩(7)
「うん、光さんね、すごく由紀さんの前で自然なの」華奈
「同い年だからかな」春奈
「・・・というか、由紀さんそのものに何か・・・」華奈
「そうかなあ・・・明石の君かなあ・・・」春奈
「え?明石の君って何?たこやき?」華奈
「・・・源氏物語知らないの?」春奈は呆れた。
「全然、読んだことないよ」華奈
「それだから、お子ちゃまって言われるの」
春奈は、ここでニンマリとした。
「ああ、お食事も準備してくれるそうです」
攻防戦真っ盛りの二人に、突然、ルシェールが振り返った。
「へえ・・・何だろう、フレンチかなあ・・・」
春奈の「口撃」にタジタジとなっていた華奈は、ようやく明るい顔になった。
「いや、おそらく鎌倉名物の磯料理だと思うよ」光
「へえ・・・食べられるかな」華奈
「そうだよね、奈良の人って海がないから、あまり食べない」春奈
「お寿司だって、柿の葉寿司みたいな感じ、生のお魚ってあまり」華奈
「そうかあ・・・じゃあ、華奈ちゃんと春奈さんは、生もの抜きかなあ」光
「そんなことはない、お魚でますます美肌です」春奈
「食べ盛り、育ち盛りの楓には、新鮮なたんぱく質が大切」華奈
「光さんは磯料理好きなの?」
ルシェールは不思議だった。
「うん、鎌倉だけじゃなくて、伊豆とか沼津でよく食べた、大好きさ」光
「へえ・・・意外・・・今度連れてって」ルシェール
「うん、そっちも案内するかな」光
これで、話が弾んでいる。
「あの二人・・・盛り上がりすぎ」華奈
「杉並に帰って取り返す」春奈
「私が光さんの脚もむかな」華奈
「貴方の肩もみ、下手、脚なんて最悪」春奈
「じゃあ、私が光さんに脚もんでもらう」華奈
「最初からそれが目的でしょ」春奈
「当然!」華奈
ルシェールに「先を越された」二人は、二人だけで、どうでもいい攻防戦を行っていた。
「おやおや、ルシェール、そして光君、大きくなったねえ・・・」
カトリック教会に入ると、大柄の神父が出迎えてくれた。
「うん、子供の頃からお世話になっている、マルコ神父です」
光が春奈と華奈に神父を紹介した。
「ここに来るなら、もっと早く言ってもらえれば・・・でも、それにしても・・・」
マルコ神父は笑顔を隠せない。
何よりルシェール、春奈、華奈のお土産の量が半端ではない。
「確かにそれで、電車に乗れば、他の人の迷惑ですね、さすが、ルシェールです、機転がはやい」
マルコ神父の笑顔は、本当に優しい、そして愛嬌がある。
「とりあえず、お疲れでしょうから、おくつろぎになっていてください」
「お茶を御用意いたします」
マルコ神父は四人を別室に案内した。
「はい、この部屋も久しぶりです」光
「うん、子供の頃といいましょうか、お母様が亡くなるまで、よく来られましたね」マルコ神父
「神父様には、お世話になってしまって・・・」光
「いえ・・・そのあと、来られなかったので、本当に心配していました」マルコ神父
「ああ、本当にごめんなさい・・・ご心配をおかけして」光
「いえ、そんな、ここは神の家です、全てをお許しになり、おつつみになられます」マルコ神父
「はい・・・少し、心が楽になりました」
光は少し笑顔になった。
「あの・・・光君は子供の頃、どんな?」春奈
「あ、あなた美智子さんの娘さんですね、よく似てらっしゃる」マルコ神父
「え?母をお知りで?」春奈
「はい、それは、ピエールともどもお世話になりまして、そこにお座りになられている華奈さんのお母様、美紀さんとも・・・」マルコ神父
「へえ・・・知らなかった・・・」春奈
「・・・奈良にいたことがあるんですか?」華奈
「ああ、全員一緒です、光君のお父さんの史さんも、お母さんの菜穂子さんもね」マルコ神父
「だから、何も心配いりません、ここは神の家です」ルシェール
「ああ、ルシェールからの電話の後、奈良の圭子さんから電話が来ました」マルコ神父
「・・・え?」光
「ああ、光君おそらく、歩き過ぎて、本当はヘロヘロだから、申し訳ないけど杉並まで送ってくださいって」
マルコ神父は大笑いになった。
「ああ、話を変えてしまいました、あまりにも懐かしくて・・・」
マルコ神父は話を続けた。
「光君の子供の頃は・・・大人しいけれど、よく笑う子でした。菜穂子さんがオルガンを弾いている隣に、ちょこんと座って聖歌が終わると、一緒にお辞儀していました」
「その姿が可愛いって、それでミサに来る人も増えたくらいですよ」
マルコ神父は懐かしそうに話す。
「・・・ふーん・・・よく笑ったんだ」春奈
「私の前では、大人しかったけれど、あまり笑わなかった」華奈
「警戒していたとか・・・」春奈
「ルシェールの前ではよく笑ったよ」
ルシェールの一言で、春奈と華奈は、またしても打ちのめされている。




