第181話鎌倉散歩(4)
「それでは、こちらに」
不思議な僧侶の声かけで、方丈に入った。
既に、別室に「座禅」の準備がなされていた。
「わあ・・・なんと、落ち着くところ」春奈
「座禅って、ほとんど経験がありませんが、こうなっているんですね、座布団が折られていて」
ルシェールも、感慨深そうである。
「そうか・・・正座じゃないんだ」華奈
「・・・そんなことも知らなかったの?」春奈
「はい、まだ、うら若き乙女でございます」華奈
「いや、華奈ちゃんの場合は、幼きでは?」ルシェール
「うん、座布団一枚!」春奈
「それは笑点でしょ、まったく」華奈
「そう、歌丸さん、面かったです」ルシェール
「へえ、ルシェールも笑点見るんだ」春奈
「華奈ちゃんは、黄色い服着た人が好きなのでは?」ルシェール
「二人とも座布団全部、持ってってもらいます」華奈
「・・・山田君いないし」春奈
「ここでも、言葉責めにあう、薄幸な華奈、あとで光さんにたっぷり、癒してもらいます」華奈
結局、座布団を見ると「笑点」以外には、思い浮かべることのない巫女三人衆である。
「あの・・・」
どうでもいいバトルを聞いていた僧侶から、三人に声がかけられた。
「はい・・・」
さすがに、あまりにも程度の低いバトルに恥じたのか、春奈、ルシェール、華奈は姿勢を正した。
「巫女様がた・・・一応、ここは座禅の場でございます」
「それなりの、お気持ちで・・・」
しっかりとたしなめられてしまった。
光は既に、しっかりと目を閉じ、座禅の姿勢に入っている。
「寝ているだけかも」春奈
「そのままひっくり返ったら、支えないと」ルシェール
「いや、それは、この許嫁の華奈の役割」華奈
「ああ、あれは時効」春奈
「うん、自分だけ宣言しても無駄」ルシェール
「でも、ほんと痺れてきた」華奈
「華奈ちゃんの足、つんつんしたら面白そう」ルシェール
「それだけは・・・」華奈
「どこかでブランコで遊んでいたら?」春奈
結局、不思議な僧侶の諌めも、この巫女三人衆には、全く効き目がない。
その不思議な僧侶は、ついにあきらめたのか、光を連れ去り別室に入ってしまった。
「さて、この子は、大丈夫なんですか?」
不思議な僧侶は別室で、光に声をかけた。
「いや、動いている割に食欲が落ちているのは事実」
「おそらく他人の期待に応えるため、無理をしているのかもしれない」
光からの声は、明らかに光の声とは異なっている。
「うん、今倒れられると危険ですな、地蔵としても」
どうやら、その不思議な僧侶は、地蔵が変化していたらしい。
「ああ、それだから、鎌倉で精進料理としたのさ、昔から慣れ親しんだ味のほうが食べると思ってね、阿修羅としても心配」
光の目も異様に光っている。
おそらく、阿修羅が語っているらしい。
「あの巫女たちも、懸命に支えていますが・・・」地蔵
「ああ、彼女たちがいなければ、とっくに倒れている」阿修羅
「それでも、この子の心を閉ざすものがある」地蔵
「・・・傷つきやすい子なのさ、心に壁があるのも、そのため」阿修羅
「やはり、母親ですか・・・」地蔵
「うーん・・・それもあるけれど、自分で乗り越えないとなあ・・・」阿修羅
「そうですね、まずは自分で前に進む、それを支えるのが私たち」地蔵
「いや、自分で前に進み始めているのは事実さ、心は開き始めている、ただそれが・・・まだ危うい」阿修羅
「間に合いますか?」地蔵
「闘いは大丈夫さ、ただ、終わった時点がギリギリかなあ・・・」阿修羅
「今の状態なら、闘いが終わった時点で、この子の命はなく」地蔵
「受け継ぐ男の子も途絶える、それでその後はいつになるのか、わからん」阿修羅
「世が乱れても糺す力が消える」地蔵
「ああ、変化からこの子の身体に戻れなくなるとそうなる」阿修羅
「私に少し考えがあります」地蔵
阿修羅と地蔵の会話はそこで終わった。
「あれ?」
光は、声をあげた。
「どうしてここにいるの?」
周りを見回しても、誰もいない。




