第175話光と斎藤の格闘技談義
誰も予想をしていなかった校長からのアンコールで、逆に校長が拍手されている状態になった。
「さすが校長」「最近、得点高い」
様々、珍しく学生たちからの「おほめ」の声まで受け、校長は笑っている。
「じゃあ・・・これ・・・」
光が少し神妙な顔で楽譜を並べた。
祥子先生をはじめ驚いた顔を見もしないで、光は弾きだしてしまう。
「あ・・・これ・・・シャンソン?」
「知っている、この曲、聞かせてよ愛の言葉をだ・・・」
「なんか・・・ウルウルしてきちゃった・・・」
「祥子先生・・・上手過ぎ・・・祥子先生も泣いている・・・」
「校長先生まで・・・顔抑えている」
様々な声が聞こえる中、確かに校長は泣いている。
「校長先生、どうかしました?」
春奈も心配になる。
「・・・初恋の歌で・・・」校長
「・・・はい・・・」春奈
「・・・失恋の歌です」校長
「そうですか・・・」
春奈は、それ以上言えなかった。
軽音楽部の演奏はそこまでだった。
聴いていた全員が、ほんわかとしてそれぞれのクラスに戻って行った。
少なくとも朝の殺伐とした雰囲気はない。
「光君」
ピアノの前から立ち上がり、歩き出した光を校長が呼び止めた。
「はい」
光が校長の前に立った。
「放課後に校長室に、君のお客様が来る」
校長は優しく微笑んでいる。
「お客様とは?」光
「推薦状を、先方から持って来られた」校長
「え?」光
「どうやら、光君の家とは、古くからの知り合いらしいね、驚いたよ、楽しみだなあ」校長
「・・・はい・・・楽しみにします」
光も笑った。
「ところで、あの二曲はどうして選んだの?」校長
「ヒア・カム・ザ・サン」は父の好きな曲、「聞かせてよ愛の言葉を」は、母の好きな曲でした」
光は恥ずかしそうに応えた。
「そうか・・・」
校長は少し難しい顔をした。
「コンサートを企画します、その時は光君の好きな曲を」
校長は驚く光に少し笑い、校長室に戻って行った。
「へえ・・・あの二曲、そうだったの、知らなかった」
春奈は光と並んで廊下を歩いている。
「うん、特に言うことでもないかなって」光
「その言葉の響き、冷たい」春奈
「ごめんなさい」光
「何でも言ってね、心配なの」春奈
「春奈先生、歌好き?」光
「先生って言い方、二人きりの時やめて」春奈
「ここは、まだ学校です」光
「その冷静な言い方も気に入らない」春奈
「家に帰ったらピアノ弾きますから、歌ってください」光
「えへへ、許してあげる」春奈
「あ、そういえば前田さんは?」光
「うん、松葉づえで病院に行ったよ」春奈
「少しやりすぎたかな」光の目が光った。
「でも、上手に抑えられて・・・助かります」春奈
「まあ、あのゴツイ奴らよりきれいだろう」
光の語調はいつのまにか変わっている。
「阿修羅だ・・・」
春奈に先を越された華奈の目に阿修羅が映っていた。
「でも、気に入らない、独占は認めない」
華奈は、強引に光の隣に並んだ。
「あれ?華奈ちゃん」
春奈は、「わざとらしい」声をかける。
「出し抜きは認めません、気づいていたくせに・・・」華奈
「え?偶然だよ」春奈
「いえいえ、教師の立場を利用するのは反則です」華奈
「いや、学生を保護するのは、教師の職務権限です」春奈
「ショクムケンゲンって何?」華奈
「漢字で書けたら教えてあげる」春奈
再び攻防戦が始まるが、既に光の姿はない。
光は、いつの間にか、はるか先を歩いている。
「光君、合気道やっているの?」
光の隣に、柔道部斎藤が立って歩いている。
「あ、はい・・・子供の頃、父に手ほどきをされました」
「それから、奈良に帰るたびに、誰かは知らないけれど、おじいさんみたいな人に、教えてもらいました」
「今、その人どこにいるのかな・・・合気道とは違うって言っていました」
「もっとかなり古くて、この国のものでないとか・・・」
光は不思議な話をしていた。




