第174話昼休みのミニコンサート?
「しかし、あの前田をいとも簡単に・・・」
自分のクラスに戻った斎藤が蒼ざめている。
「合気道の演武で見たことがあるな、でも、あの技、本当に出来るなんて・・・」
「そういえば、柔道部の時も、レスリングの時も一瞬のタイミングだ」
「コンサートもそうかなあ、クラシックなんて聞いたことなかったけど・・・とにかく間というか、そういうのが上手い、引きつけられて、まだ耳に残っている」
「お昼に音楽室って言っていたけれど、聴きたくなってきた」
「でも、光君ともう一度立ち会いたいなあ・・・すごく参考になる」
斎藤は、蒼ざめた表情から、少しずつ光に対しての「尊敬」が高まっている。
一限目の授業を終えて斎藤は、柔道部顧問の山下に、前田と光の一件を報告した。
「そうかあ・・・全く問題にならなかったんだ」山下
「私も出る幕もなく」斎藤
「合気みたいな技か?」山下
「はい、まるで一瞬で」斎藤
「いやー見たかったなあ・・・」山下
「それでね、また、立ち会いたくなってきました」斎藤
「うーん、俺もだ」山下
「え、先生も?」斎藤
「だって、立ち会っていないのは俺だけ」山下
「坂口さんは?」斎藤
「坂口さんも立ち会いたいって言っているよ、それも勉強したいってさ」山下
「へえ・・・そこまで」斎藤
「どうやって引っ張り出すかさ、問題は」山下
「全く興味がない光君だから」斎藤
「・・・無理かな・・・」山下
「はい、やはり無理だと思います」斎藤
柔道家達の光への評価は、ますます高まっている。
しかし、引っ張り出すことはあきらめの状態である。
「前田君、当分歩けないよ」
春奈は、うなだれている前田に応急手当を施している。
「それに、突然光君を襲ったのは前田君、みんなが見ている前で」
「全然言い逃れが出来ないことわかっている?」
「厳しい処分があることは理解してね」
春奈は、様々話しかけるが、前田は震えているだけ。
「・・・怖かった・・・」
「膝の関節、ポンと外され・・・」
「そのあと・・・一瞬、光の拳が鼻先寸前まで来た」
「あれが当たっていれば・・・」
「あの拳、俺の顔より大きく見えた・・・」
「いったい・・・あの光って何だ・・・」
「退学も何も、あんなのがいると、怖くてここにいられない」
前田の震えは、病院に行っても止まらなかった。
昼休みになった。
「あれあれ・・・」
祥子先生が驚いている。
未だ曲が決まっていない段階で、光の後ろにたくさんの学生がついて来たのである。
「ちょっと困ったね」祥子
「打ち合わせなのにね」久保田
「何か楽譜あったっけ・・・」清水
「ここにいるのはピアノ、ギター、ベース、ドラム・・・先生は?」光
「うん、ピアノは光君にまかせる、私はヴォーカル」祥子
「へえ、先生歌うんですか?」光
「あのね、私だって音大卒プロ・・・」祥子
少し口を尖らせる祥子を見ようともせず、光は楽譜を選んでいる。
「・・・待たせるのも悪いから・・・」
光は案外早く一曲選び出した。
「へえ・・・これ好き」祥子
「先生も?」久保田
「じゃあ、早速・・・」清水
その言葉の通り、ギター久保田のイントロが始まった。
「わっ・・・ビートルズ・・・」
「まさか、音楽室で」
「ヒア・カムズ・ザ・サン・・・いいなあ・・・」
「祥子先生、声きれい!」
「声楽の声だしてない、ちゃんとポップ声で歌っている」
「なんだ、もっと早く聴きたかった、祥子先生の歌」
「あっ光君、声合わせている、ハモってる」
「歌上手いね、隠していたのかな」
「久保田さんも清水さんも楽しそう」
「朝の嫌な雰囲気、吹っ飛んだね」
「光君、それでこの曲選んだのかな」
様々、喜ぶ声が聞こえてくる。
「ほーっ、これもいいなあ・・・」
いつの間にか校長が立っている。
「軽音楽部の予算増やそうかなあ、コンサート開いても面白い」
「わが青春のビートルズ、もっと聴きたくなった」
既に校長の決心はなされたようだ。
「うん、上手い、でも、どうして私の前で歌わないの・・・」春奈
「華奈も入りたい」華奈
「だめ、貴方のヴァイオリンは未熟」春奈
「歌でもいい」楓
「まだ子供の声、大きいだけ」春奈
春奈と華奈もバトル再開をしながら聴き入っている。
その隣でいかつい柔道部斎藤と顧問山下でさえ、リズムを取っている。
昼休みにも関わらず、光と祥子先生を加えた軽音楽部の演奏は、もう一曲追加された。
アンコールの声が、校長から出されたのである。




