第165話華奈の失態、カルロスの魂胆
光は奈良町を走っている。その後を楓、春奈、華奈が続く。
「なんかムゴイことをしているみたい」楓
「うん、春奈さん・・・村田さんって・・・あの村田さん?」華奈
「ああ、きっとそうだよ、話の進め方からして、レスリング場と同じだもの」春奈
「ルシェールも怖くて外に出られないって」華奈
「ああ、出ない方がいい」楓
「警察も援軍を呼ぶ前にやられちゃったらしい」春奈
「それに何のために教会前?」華奈
「ああ・・・それは・・・」
春奈は光を見た。
「うん、話している時間はないよ、急ごう」
光は走る速度をあげた。
既に誰も追いつかない。
「ああ、あれで案外足は速いの」春奈
「逃げ足は速いけど・・・」華奈
「ルシェールのためかな」楓
「ああ、そうかも、ルシェール可愛いしさ」春奈
「サヴァラン美味しかったもの」楓
「どうして、こんな時に、意地悪するんですか!」
「サヴァランよりも、ルシェールより教会前でしょう、今は!」
華奈は怒った。
まるで教会前の不穏な状況を真剣に考えていないのではないか、華奈には楓と春奈が無神経極まる女に見えている。
しかし、春奈と楓もさるもの、華奈の怒りなど、何も気に留めない。
「楓ちゃん、どっちが美味しかった?」春奈
「ああ、サヴァランかなあ、フレンチトーストと一個ずつ食べたけれど」楓
「ほー・・・サヴァラン美味しいよね・・・味が濃いんだけど、上品」春奈
「・・・私、フレンチトースト三つ!」
我慢できなくて華奈も、お菓子談義に巻き込まれてしまう。
「あれ?サヴァランは?」春奈
「少し洋酒が入っているから、大人の味だよ」楓
「じゃあ、華奈ちゃん無理さ、子供だもの」春奈
「そんなことない、後で食べる、華奈のほろ酔い姿は、必ず光さんを魅了する」華奈
「もうお母さんに食べられちゃったかも」楓
「ああ、そうだよね、華奈ちゃんには、もったいないとか言ってさ・・・」春奈
「そんなこと・・・言いそうだ・・・あの年甲斐もない女・・・」華奈
「そんなことよりね・・・華奈ちゃん」楓
「うん、ちょっと恥ずかしいよ」春奈
「え?」
華奈は驚くけれど、意味がわからない。
「華奈ちゃんの、そういう不始末がマイナス増加させるの」楓
「だからお母さんに子供扱いされるの」春奈
「わかんないよ・・・ちゃんと言って」華奈
しかし、楓と春奈は、華奈を無視して走り出してしまった。
華奈も仕方なく走り出す。
その華奈の口の周りにはフレンチトースト三つの「残り」がこびりついている。
光は教会前にたどり着いた。
しかし、既に群衆ともいえる人だかりである。
それでも、かき分けかき分け、階段をのぼった。
「これは・・・」
警官十余人が柱に縛りつけられ、口から泡を吹いている。
夥しいほどの鹿が投げ出され、その下に空手着を着た学生、刀を持った男たちが横たわっている。
光の顔に怒りが浮かんだ。
「おい!もしや光か!」
いきなり怒声がかけられた。
やはり、かつてのレスリング部顧問村田だった。
「どうして、こんなところにいるんだ?」
「少なくとも高校二年生の二学期、勉学に勤しむべきお前が、のんきに奈良旅行か?」
「そんな、意識の低さが学園の風紀を乱すんだ」
「そのうえ、お前の不始末の責任を取らされ、この俺は職を失うハメになった」
「お前は、あの馬鹿校長とつるんでいるのか!」
「許せねえぞ!」
「ここで痛い目にあいたくなかったら、俺の目の前で土下座しろ」
「さあ、すぐにだ!」
「早くしねえと、こんな教会なんぞ火の海にしてやる」
村田の足元には灯油の入ったポリタンクが置かれている。
「まあまあ、村田さん・・・」
後ろからデップリとした男が出て来た。
顔つきから、どうみても南欧人である。
「私、スペインのカルロスって言います、村田さんとはオリンピック以来のお友達」
発音は少し変だが、何とか話は通じている。
「去年から、ここ日本に来ました、それでね、このあいだ村田さんとレスリングで勝負してね・・・」
「偶然だけれど、勝ってしまいました」
「多少の反則はお互いに目をつぶるっていうルールでね、村田さんの飲み物に少し薬を入れたらあっけない、でも約束は約束」
「それからはカルロスが村田さんのボス、ちゃんと使ってあげています」
カルロスの言葉で、村田が顔をしかめる。
村田は、結局カルロスに騙され「薬を飲まされ負けた」らしい。
ただ、変なところで律儀な村田は、カルロスの約束に縛られてしまっている。
それか、何らかの「金か物」を掴まされたのか、現時点ではカルロスに頭が上がらないようだ。
「それでね、光さん、レスリングの素質もあるようなので、ここで私と遊んでもらえませんか」
「その結果次第で、まあ、いろいろと、今後のこともねえ・・・」
カルロスはニンマリと笑う。
村田に加え、光まで手下にしようという魂胆だろうか・・・




