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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
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第164話教会前の騒然

既に夕闇に包まれた教会前の広場が、騒然としている。

華奈からの連絡の通り、大柄なスペイン系の集団が三十人以上集結、そしてありえないことであるが、その全員が鹿を担ぎ上げ、振り回している。

あまりにも異様な状況のため、通りがかった人たちも、固唾を飲んで見ている。

いや、脚を動かすことも出来ないようである。


「ガキン」

「ゴキ」

「ボキボキボキ・・・」

不穏な音が響き始めた。

スペイン系集団が鹿をかついだまま角を折りだしたのである。

いや、折っているのは、角だけではない。

背骨や首、脚の骨も折りだしている。


「あ・・・なんてことを・・・」

通行人の口から恐れに満ちた声が聞こえてきた。

あまりの恐ろしさに泣き出す人もいる。


鹿の泣き叫ぶ声が響きだした。

「キューン・・・」「キューン」「キューン」・・・・

口から泡を吹いている鹿が多い、すでに失神、いや失命したのだろうか、ほぼ動くことがない。


「奈良の神の使いを・・・」

通行人の中から少しずつ苛立ちの声が聞こえてきている。

数人の空手経験者だろうか、空手着を身に着けた若者たちが、スペイン系集団の前に向かっていく。


「許せねえ!」

「何でこんなことを!」

様々な突きや蹴りを繰り出してく。

しかし、結果はあっけない。

鹿を担いだままの大柄なスペイン系の男たちの前蹴りや回し蹴り一発で、腹や頭をやられ、逆にのたうち回っている。


「この外道が!」

刃物を手にした男たちも十数人現れた。

いわゆる地元の裏の男たち、普段は嫌がられる存在であるが、この状況では期待がかかるようだ。


「お願い!許せないからやっつけて!」

「何でもいい、あんなことする人たちなんて、何してもいい!」

日頃は考えられないような言葉をかけられ立ち向かうが、結果は悲惨なものである。

刀を構えて突進した途端、鹿を投げつけられてしまう。

鹿は、そのまま刀を持った男たちに覆いかぶさっている。

しかも関節を折られ、鹿は動けない。

スペイン系の男たちは、鹿の身体の上にその足を置く。

そして鹿の身体ごと、刀を持った男たちまで、その足で踏みぬいてしまうのである。


「バキバキバキ・・・」

「ゴキゴキゴキゴキ・・・」

「キューン・・・」

「グギャー」

鹿の骨と人の骨の折れる音に加え、それぞれの絶叫が教会前の広場に響き渡る。


「警察は?」

「何しているの?」

警察を探す声も聞こえて来た。

「いや・・・無理・・・」

あきらめとも聞こえる声がした。


「・・・あそこに・・・」

これも絶望的な声である。

絶望的な声を裏付けるかのように、警察官が十余名ほど、柱に縛りつけられている。

動くこともできない。

足や腕の関節が、全て折られているようである。


恐ろしくて身動きが出来なくなった人々の前に、一人の日本人が進み出た。

どうやらスペイン系の集団の中にいたようである。

体中が鹿の血だろうか、鮮血にまみれている。


「おい!おまえたち!」

その日本人がいきなり怒鳴った。

通行人全員が、震えあがっている。

「この俺たちに襲い掛かるとは何事だ!」

「警察を含め!」

「幼稚な空手野郎、それからチンピラか!」

「理由も言わず襲い掛かるなんて、日本人はいつから暴漢の国になったんだ!」


「それに奈良は馬鹿か!」

「こんな鹿なんぞの、ケダモノを放置している」

「通行人の邪魔になっているではないか」

「それを俺たちがありがたくも、危険を考慮し角を折り」

「場合によっては、始末してあげているんだ」

「その上、わざわざ、教会の前に運び、神の元にお返しまでしようとする、心遣いが何故わからん」


「それを、感謝の言葉一つもなく、大恩人に理由も無く襲い掛かるなど・・・」

「そんな奈良は滅びるべきだ」

「全ての寺社を焼き払ってあげようか・・・」

「ふん、そうすれば誰も来なくなる」

「お前たちの飯のタネもなくなる、こんな愉快なことはない」

その日本人は、酷薄な笑みを浮かべている。

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