第158話奈良公園の異変
結局、京都駅まで、座席は変わらなかった。
春奈と華奈が並んで座り、美紀は光の横にいる。
春奈も華奈も、美紀の涙で何も言えなくなってしまったのである。
それでも京都駅につき、光は目を覚ました。
隣に美紀が座っていることに少し驚いたような顔をするが、その後は笑顔である。
うれしそうな、安心した顔にも見える。
「美紀叔母さんに逢えてうれしいなあ」
「子供の頃から、本当にお世話になって・・・」
頭まで下げている。
美紀もうれしそうな顔である。
ただ、近鉄に乗ってからは、春奈の隣に座った。
光は、華奈と並んで座る。
ただ、いつもの雰囲気ではない。
とにかく四人とも目が異様に光っている。
「ナタリーからだったんだけど・・・」
美紀は声を低くしている。
「うん・・・・」
春奈も声が低い。
「昨日から奈良公園で何か起きているらしい」美紀
「何かって?」春奈
「鹿の角がありえないぐらいに折られているとか・・・姿が少しずつ減っているとか」美紀
「え?そんなことあるの?」春奈
奈良公園の鹿は、奈良のシンボル、春日大社では神の使いである。
少なくとも簡単に手が出せるものではない。
「鹿の角をありえないぐらいに折る・・・」
「数は・・・今まで多すぎてよくわからないけれど・・・」
華奈も考え込んでいる。
「それでね、ナタリーが言うのに、ヨーロッパ系と言っても、南の方、スペイン語を話す人が多くなっているんだって、それもみんな体格がいい」
「特に東大寺の前あたりで、観光客にやたら声をかけまくっている」
「でも、スペイン系だから、カトリックのはずなんだけど・・・」
「何故か奈良のカトリック教会には入ってこない」
「ああ、それは教会の中という意味、スペイン語がかかれたゴミは、大量に教会の前に毎朝置いてある、掃除で一時間もかかっているらしい」美紀の顔も深刻である。
「体格がよくてスペイン系、数が多い」
「カトリックなのに、教会内部には、入ってこない」
「おそらくゴミは、その人たちだね・・・」春奈
「うん、何故東大寺なのかはわからない、興福寺とか、春日大社には、いないみたい」美紀
「鹿と関係があるのかな・・・」華奈
「なかなか、普通の人では、鹿の角は折れない」春奈
「いずれにせよ、その人たちが来てから、そういう変化があったんだから・・・」美紀
「でも、鹿とかカトリック教会前のゴミとか・・・」華奈
「まあ、どう考えても味方じゃないな、奈良に悪意を持っている」春奈
「あれ・・・」華奈がスマホを見ている。
「え?誰から?」美紀
「うん、ルシェール・・・今日も、とんでもないことがおこっているらしい」
華奈の声が震えた。
「とんでもないって何?」春奈の声も震えた。
「酔っぱらった体格のいいスペイン人が鹿に灯油をかけて、ライターで火をつけたんだって・・・」
「それも観光客がごった返している真ん中」
「周りの鹿まで半狂乱・・・あちこちの店に飛び込んだり、奈良公園走り回って・・・」
華奈の口から、恐ろしいまでの状況が伝わって来る。
「それで、そのスペイン人は?」美紀
「うん、すぐに警察に捕まったんだけど・・・」華奈
「まあ、それぐらいならルシェールも、ここまでメールしないと思うんだけど・・・」
春奈は、光を見た。
光も頷いている。
目が異様に光っている。
「捕まる時にね、誰もわからない言葉を叫んだらしい・・・」
「スペイン語でもフランス語でもイタリア語でも・・・まして英語なんかじゃない・・・」
華奈も、何故か光を見た。
「うん・・・それはアラム語だ、古くからの、呪いの言葉」
「神と人、全ての善なるものを、呪い滅却する言葉だ」
「捕まった男も、かなり強い男さ」
光・・・いやおそらく阿修羅は冷静である。
「でも、そんな強い人、よく警官が・・・」春奈
阿修羅が強いというぐらいなら、相当強いと思う。
「いや、捕まえたのは人間じゃない、人間のフリをしただけさ」
ここで光、おそらく阿修羅は苦々しい顔をした。
「と言うと?」美紀
「ああ、捕まえたのは金剛力士の阿形・・・金剛力士が人に化けた」
「もう一人の金剛力士の吽形は・・・今、暴れている」
光はますます、苦々しい顔になった。
美紀と華奈、春奈の身体が震えている。




