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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
155/419

第155話村田とカルロス

レスリング部の前顧問村田は憔悴した顔で渋谷の街を歩いている。


「こともあろうに・・・」

「あんなに校内の風紀を乱す光に高田がやられ・・・」

「そこまでは、万が一想定をしたけれど・・・」

「徒党を組んでの主張は正解だった」

「完全な校則違反だ」

「それを校長も理事長も何故、認めない」

「それどころか、クビ、高田まで退学・・・」

「おまけに後ろで見ていた前田は何もしない」

「俺の方針を聞かないうえ、総合格闘技なんぞに足を突っ込む」

「レスリング部員が不当にも痛めつけられたのに見ているだけ」

「俺の方針を聞かずして、都大会出場を取り消された逆恨みか?」

「それだって、教師の指示に従わない校則違反だ」

「スポーツ選手として、いや男として恥ずかしい限りだ」

学園内の誰もが、あきれるような理屈ではあるけれど、村田はそれを考え続けている。

そもそも、今回の騒動に対する反省は全くない。

自らの正当性以外は、全く考えていない。


しかし、突然職を失ったことには変わりがない。

毎年ベンツや横浜の家賃を提供してくれる「スポンサー」にしても、有名オリンピック選手、有名学園のレスリング顧問として、秘密裡に資金他を提供する。

それが無職となれば、今後はおぼつかない。

有名オリンピック選手だけでは、特にここ日本では生活は難しい。


「おや、ムラタさん」

憔悴して渋谷の街を歩く村田の耳に、変な発音が聞こえて来た。


「ん?」

怪訝な顔で村田は声のする方に向き直った。

「ああ・・・カルロス?」

村田の記憶は、目の前に立つ男を見るなり、よみがえった。

でっぷりとした体型の男が立っている。

スペイン出身、若い頃はオリンピックで闘ったことがある。

もちろん、その時代のカルロスは、鍛えており今のようにでっぷりではない。


「ああ、よくわかりましたねえ・・・」

「私も体型が全然違ってしまって・・・」

カルロスは陽気な笑みを浮かべる。


「本当に肥ったなあ・・・」

「ところで、どうしてここに?」

村田は、何故かつてのオリンピック仲間、それも闘ったことのあるスペイン人がここにいるのかわからない。

逢うにしても、二十年以上経っている。

それに発音も変ではあるけれど、日本語で話が通じている。


「ああ、去年から日本に来ました」

「今は、すぐそこでスペイン料理店しています」

カルロスは、本当に機嫌が良さそうだ。

何しろニコニコと笑っている。

その笑顔から憔悴していた村田でさえ、笑みが戻っている。


「へえ・・・面白そうだなあ・・・一度、行ってみたいなあ・・・」

既に学園を解雇された村田には、十分過ぎる時間がある。

多少は社交辞令もあるけれど、村田もにこやかに答えた。


「あーーそれならですねえ・・・」

カルロスは変な発音ながら、腕時計を見た。

「今、三時半・・・店が始まるのが六時半・・・」

「三時間もあるから・・・少し遊びましょう・・・」

カルロスは、そこでニヤッと笑った。


「遊び?」

村田は、カルロスの言う「遊び」が理解できない。

首をかしげている。


「ああ、遊びですよ、面白そうだ」

「さあ、来てください」

カルロスはどんどん歩いて行ってしまう。

仕方なく村田も後を追う。


「ここ?」

カルロスが足を止めた場所にスペインレストランがあった。

かなり豪華な店である。


「ああ、はい、ここで細々とね・・・でも遊びの場所はここの地下にあります」

カルロスは地下に続く扉を開け、どんどん階段を下りていく。

「ここです」

カルロスは地下室の扉を開けた。


「え?」

村田は目を疑った。

レスリングのマットがある。

「ここは?」

村田も疑問に思う。

「え?看板見なかったの?ここでレスリング教室やっています」

「だからここで、村田さんとレスリングして遊ぼうってね・・・」

カルロスは相変わらず陽気に笑っている。


「もし遊びが嫌だったら、本気でもいいですよ」

「その代わり、カルロスが勝ったら、カルロスが村田さんの主人です」

あっけに取られている村田にカルロスは、意味不明なことを言った。

そしてその「遊び」がやがて起こる争乱の引き金となったのである。

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