第153話奈良町の仲間、そして東大寺に立つ二体
「家に帰って光君の話ばかりするの」
「あまり、そればかりやっていると迷惑になるって叱るんだけどね」
美紀は肩をすくめて光を見る。
光は何も反応がない。
ただ、ヒイハアいって珈琲豆を挽いている。
それでも何とか挽き終えて珈琲を淹れ、テーブルの上に置いた。
「うん、お父さんと同じ味」美紀
「へえ・・・知らなかった、美紀さん、光君のお父さん知ってらっしゃるの?」春奈
「うんうん、春奈さんのお母さんの美智子さんも、よく知っている」美紀
「そうかあ・・・みんな奈良町の仲間か・・・」春奈
「その中で、光君のお父さんを射止めたのが、菜穂子さん、光君のお母さん・・・でも若くして亡くなっちゃうしね・・・」美紀
「うん、写真で見たけれど、本当にきれいな人ですね」春奈
「うん、ピアノが上手で・・・いつも光君と弾いていたな」美紀は涙ぐんだ。
「うん、後で菜穂子さんのピアノ見ます?」春奈
「うん、是非・・・でも見たら泣いちゃう」美紀
「光君、その時ピアノ弾いて」春奈
美紀と華奈も光を見た。
「うん」
光は頷いている。
「ところでね、さっき圭子さんから連絡あったんだけど」
美紀は突然話題を変えた。
多少涙は残っているが、少し厳しい顔になった。
春奈としても、今日の美紀の突然の訪問の目的がこれであると確信した。
「大聖堂でクリスマスのコンサートをやるんだって?」
「それにナタリーとルシェールが絡んでいて、神父つまり、あのピエールの大聖堂ってことなんだけど・・・」美紀
「え・・・はい・・・」
「それで、少し確認したいことがあって、もう少ししたら奈良に行こうかと思っていました」
春奈も、圭子と美紀の情報の速さに舌を巻く。
「うん、そこまでわかっていれば話が速い」
「ただね、コンサートそのものはいいんだけど・・・」
「圭子さんによると、それにかこつけて、とんでもない化け物が出るらしい」
「闘いの結果次第では恐ろしいことに・・・まだ読めないんだけどね」
「それもあって、興福寺の八部衆とか十二神将が出たがっていてね」
「ああ、あの東大寺の門の二体は、隠れて屈伸運動始めたらしい」
美紀の顔は真剣である。
「東大寺の前の二体・・・」
珈琲を飲みながら光は、顔をしかめた。
そしてしかめた顔ながら、目が異様に光っている。
「金剛力士様たちですか?」
美紀が光に対して、慎重な言葉づかいになった。
これで、美紀も光の中の阿修羅を認めていることが、はっきりした。
「うん、あいつらさ」
「とにかくゴツイし、顔が怖い」
「喧嘩では、案外強い、阿修羅にはかなわないが」
光の口調とも全く異なっている。
何しろ力強い。
「阿修羅様、金剛力士様と格闘したことあるんですか?」
春奈も興味ある質問をする。
「ああ、遊びでね」
「でも力と速さでも阿修羅の比じゃない」
「動きのなめらかさは、大人と子供」
「ただ、どうしても一度は、この阿修羅をギャフンと言わせたいらしい」
「それは地蔵さんから聞いた」
光の目は、異様に光出している。
「それで光さんは、大丈夫ですか?」
華奈は、自分にとって一番心配なことを聞く。
「ああ、光君には迷惑をかけない約束だったんだけど・・・」
「相手の出方にもよるな・・・」
「ただ、今度の闘いは、何よりこの子の体力が必要、まだまだ食が細いから、面倒をみてあげて」
その瞬間、光の目の光が消えた。
途端に光は寝息を立てている。
「疲れちゃったのかな」華奈
「うん、そんな感じ」春奈
「この間にこの子、連れて帰るね」美紀
「え?まだ早いよ、ピアノ聞いていないし」華奈
「そうだねえ・・・久しぶりだから聞きたいよね・・・」美紀
「光君起きること出来る?」春奈
「キスすれば起きるかな」華奈
「だめ、まだ早い」美紀
そんなバトルで光は目を覚ましてしまう。
そして、そのまま、ピアノを弾きだした。
「ショパンノクターン一番・・・」春奈
「菜穂子さんの大好きな曲だよ・・・泣けちゃうよ・・・菜穂子さん・・・」美紀
ピアノの上に、光の母菜穂子の写真が置いてある。




