第151話音楽部の計画会議
顔を真っ赤にして悔しがる華奈に引きずられて光は音楽室に入った。
祥子先生が華奈の異様な表情に笑っているけれど、華奈には対応する余裕がなさそうである。
「さて・・・コンサートはお疲れ様」
「光君、本当にありがとう、みんなもよく頑張った」
「すごく評判が高いコンサートになりました」
「顧問の私からも、みんなに感謝です」
気位の高い祥子先生が、全員に頭を下げている。
「それでね、今日は話し合いをします」
「うん、夏の定例コンサートも終わったんだけど、次に練習する曲とか、次のステージとか」
「本当はね、夏しか外部コンサートしないんだけど、とにかく好評でね」
「聞きたいっていう人が多いの、それは校長先生からも聞いています」
確かに音楽部の通常の年間行事は、夏のコンサートと秋の文化祭で一曲。
後は冬に、祥子先生の音大から教授を招いて、室内楽のレッスン程度である。
コンサート以後は学園内部にしか演奏の機会はない。
それを前回のコンサートがあまりにも好評だったため、外部での演奏の期待をされてしまっているのである。
しかし、秋ともなると、特に三年生は受験準備の本番になる。
そうなると人員的に三年生の数は期待できない。
オーケストラとしての構成そのものが成り立たない。
秋の文化祭で小編成でも可能な曲、冬の室内楽中心の練習には理由があったのである。
「そこでね、三年生は受験だし、それに集中してもらいたいので、どうしても小編成」
「そんなことを考えていたら、この間のコンサートに出てもらった晃子さんから電話が入ってね」
「おそらく光君も聞いていると思うけど」
祥子先生は光を見た。
光も、何か思い出したようである。
「クリスマスの日にね、大聖堂でコンサートがあるんだって」
「その日の演奏に、この学園の音楽部って打診があったの」
「まあ、みんなクリスマスだから予定があるのかなあ・・・」
「でもね、せっかくのクリスマス、みんなデートもしないと・・・」
「それに、そういう相手がいなくても、ご家庭で待っている人もあるだろうし・・・」
「そんなことを考えて、悩んでいたら、晃子さんだけでなくて、その大聖堂の神父さんからも何度もお願いの電話が入ってきてね・・・」
「三年生はともかくね、みんな、どう思う?」
「私もクリスマスだから決めづらくて、校長先生にも相談していないの」
祥子先生は本当に悩んだ顔になっている。
「祥子先生」
華奈が手をあげた。
「なあに?華奈ちゃん」
祥子先生が華奈の顔を見た。
「もし、ここの音楽部がでないとなると、どうなります?」華奈
「ああ、その場合でも晃子さんたちと光君にどうしても頼むって、うん、私も断りづらくなって、オルガンで参加することになった」祥子先生
「そうか・・・」
華奈は考え込んだ。
光は既に出演を承諾している。
単に断るのが面倒なだけだと思ったが、出演するには違いが無い。
しかし、もし、ここの音楽部がでないとなると、光は、「きれいなお姉さんたち」とクリスマスの夜を「身近」で過ごすことになる。
ヴァイオリンの技術が未熟な華奈では、お姉さんたちの邪魔になるし、演奏に加えてもらえない。
そうなると客席で、イライラしながら演奏を聴くことになる。
そしていい加減な光のことだ、ちょっと目を離せば、お姉さんたちと、またホイホイフラフラいなくなってしまうことが心配になった。
仮にその事態が避けられたにしても、超強敵ルシェールが光のそばで笑っている顔が目に浮かんでくる、これも華奈にとっては、絶対に容認できないことである。
華奈は必死に周囲の音楽部員を見た。
とにかく何でもいいから、華奈も大聖堂のクリスマスコンサートに出なければならない。
華奈とて光の妻を自認する以上、クリスマスの夜に数センチでも離れることは許しがたいのである。
「うーん・・・光栄だよね・・・」
「どうせなら晃子さんたちにも教わりながらもいいな」
「デートは聴きに来てもらってからでもいいし」
「家族だって呼べばいいし、こんなチャンスは滅多にない」
「光君だって、来年は三年生、受験で出られない」
「出ようよ」
「うん、出たいなあ、文化祭だけだとつまらない」
そんな積極的な声が強くなり、祥子と華奈の顔が明るくなった。
音楽部員としては賛成のようである。
そこまで話をまとめ、今日の音楽部のスケジュールは終わった。
後は個人練習の時間になった。
祥子は、個人練習がない光を伴い、校長室に出向いた。
途中、華奈が来たそうな顔をしたが、顧問の権限で練習を指示した。
「そうですか・・・あの大聖堂ですか・・・」
校長は驚いた顔をする。
「それで、音楽部員とも話し合ったのですが、せっかくの機会ですので、ここは積極的に考えまして、私もオルガン奏者として出ます」
祥子は頭を下げて校長に頼み込む。
「わかりました、出来るだけお手伝いをします」
校長は、笑顔で快諾した。
その後、光だけを別室に呼んだ。
数分して校長と光が出て来た。
祥子はその内容について、何度も校長と光に尋ねたけれど、正確には、わからなかった。
ようやく、光からポツリと「レスリング部のこと」と聞き、音楽部に無関係のため、質問を止めたのである。




