第15話楓と従妹デートで異変?
楓は光と「従妹」デートすることを、あえて、春奈には告げなかった。
それは春奈が、光について嫉妬をするとかそういう類のことではない。
楓自身が、どうしても確かめたいのである。
「うーん、予想通りだ」
楓は、光と街を歩きながら少々不安を覚えた。
それは、相変わらずヨタヨタと歩く光のことではない。
「まあ、すごいなあ」
楓の目は、光の周囲に向けられている。
「みんな見ているし・・・」
「光君全く気が付かないし・・・」
どういうわけか、光を、周りの女性と言う女性が注目して見ているのである。
そして光から目を離すことが無い。
光が通り過ぎても、ずっと後を追って見ている。
中には、声をかけようとする女子高生もいる。
楓が睨み付けなければ、おそらく声をかけられていただろうと思う。
「阿修羅ってこんな力もあったんだ」
楓は、おそらく光に阿修羅の力が加わった、あるいは乗り移ったと理解した。
それ以外に、理由は考えられない。
光の顔そのものは、美顔である。
眼筋鼻筋が通って、いわゆる少女漫画に出てくる美顔の男の子である。
しかし、何しろ華奢であり、その上引っ込み思案な性格。
余程の物好きでなければ、女の子が注目する対象ではない。
また、数ある仏像の中でも、阿修羅もかなり美顔である。
阿修羅は本来闘いの神であるけれど、その美顔故、他の仏像以上に人気を集めて来た。
楓としては、阿修羅のもう一つの力、特に人を引き付ける力、それも女性を引き付ける力を楓として、確かめたかったのである。
「でも、これ危険かなあ、今は私が彼女風に隣にいるから抑えられるけど、東京の雑踏なんていったら・・・」
それを考えると、不安は増幅する。
「とりあえず、冷たいものでも」
そんな楓は、光を喫茶店に誘った。
何しろ暑いし、光に水分を補給しないと、また倒れてしまう心配がある。
そして、少しでも周囲の女性の数を減らす必要があった。
顔を少し赤らめてウェイトレスが注文を取りに来る。
そして付き添いの楓に羨ましそうな顔をする。
「ご注文は」ウェイトレス
「ああ、はい、コロンビアで」
予想に反して普通の珈琲である。
「へえ、冷たくなくてもいいの?」
楓は不思議に思うが、光に特に反応がない。
楓もつられて同じものを頼む。
しばらくして、ウェイトレスが注文の珈琲を持ってきた。
「ええ?これ頼んでいない」
楓はウェイトレスの顔を見る。
頼んでいないチョコレートケーキが二つコロンビア珈琲と一緒にテーブルに置かれたのである。
「いえいえ、店長がどうしてもって」
店のカウンターの奥には、三十代前半の綺麗な女性が、こっちを見て微笑んでいる。
おそらく彼女が店長だと思った。
光は、軽く会釈し、ケーキを食べ始めてしまう。
その後のどこの店に入っても同じだった。
必ず注文以上に何かもらう。
そして、店を出ても女性店員が最後まで見送る。
もちろん、通りすがりの女性の反応は、変わりが無い。
「これじゃあ、本当に心配」
いつの間にか、春奈が隣に立っている。
「うん、どうしよう」楓
「どうにもならないけれど・・・」春奈は思案顔である。