第148話華奈のお留守番計画?
レスリング場でうなだれる村田を見ることもせず、光は自分のクラスまで必死に歩いていく。
「大変だったね」
「でも、あの二人やっつけてくれてスッとした」
「高田って人、やたら蹴ってくるし、いつも汗臭くて嫌だった」
「あの顧問もね、細かすぎてさ、そのうえ突然激怒する」
「とにかく何でも自分の気に入らないことは校則違反、学園追放だもの、怖くて話もできない」
「本当光君には、お礼しなきゃ」
懸命に歩く光に、学年や男女を問わず声がかけられるけれど、光は会釈するだけ、とにかく必死に歩いている。
「ねえ、少しはうんとか、はいとか・・・」
由紀も、光のあまりの必死な表情と反応の無さに声をかける。
「ああ、心配しないでください、おそらく食べ残しのお弁当が気になっているだけです」
突然華奈が光の隣を歩き出した。
「そう?」
由紀が光に尋ねる。
「ああ、早く食べないと・・・」
光も否定しない。
「ねえ、そうでしょう、光さんのことがわかるのは、将来の・・・」華奈
華奈が言いかけたが、そこから声が出ない。
「まだでしょ、それに一年生のクラスは方向が別、一階でしょ」
春奈が華奈の腕を引いている。
そして、華奈を一階へと引きずっていく。
「宣言できたのに・・・」
華奈はブツブツと文句を言うけれど、春奈は取り合わない。
「そんなことよりね」
春奈の表情は真剣である。
「うん・・・」
華奈もちょっとだけ真面目な顔になった。
「あれだけじゃおさまらない」春奈
「そうだよね・・・」華奈
「高田君なんて、下っ端だよ」春奈
「これで本当にあの人出てくるのかな」華奈
「自称格闘王?」春奈
「うん、レスリング場の後ろで見ていた」華奈
「ああ、あの人顧問が嫌いだったから、見殺しにするのも理解できる」春奈
「顧問も嫌っていたみたい、何しろレスリングより空手とか、そっちが好きらしい」華奈
「空手と柔道とレスリングを組み合わせたのって何だっけ」春奈
「ああ、総合格闘技っていうみたい、その方が好きみたいだね」華奈
「まあ、いつかは光君とぶつかるな」春奈
「ああ、でも相手にならないと思う・・・」華奈
「うん」春奈
「でね、阿修羅と地蔵様が話ししていたあの二人は、いつ来るのかな?」華奈
「へえ・・・華奈ちゃんも聞いていたんだ」春奈
「それは、妻ですもの、亭主の心配するのは当たり前」華奈
「ふーん、まあ当分無理だけど、聞くだけは聞いてあげる」春奈
「何ですか、その言い方・・・」
華奈は少しむくれた。
「だって、ライバル多いよ・・・晃子さん、由香利さん、由紀さん、ルシェール、春奈さん、誰を相手にしても、華奈ちゃんは実力不足だもの」
春奈は誇らしげに「胸」を張る。
「・・・最初と最後は年齢差で削除かな」
華奈の必死の抵抗が始まる。
しかし、春奈は取り合わない。
「さあさあ・・・授業ですよ、しっかりお勉強ね、華奈お嬢様」
確かに華奈のクラスが見えて来た。
春奈は、ケラケラと笑い、保健室へと歩き出した。
「ふん!許せん・・・」
華奈は春奈の「一言一言」が気に入らない。
「でも、可愛いだけじゃだめかなあ・・・」
華奈はライバルたちの顔とか体型を思い浮かべた。
「顔はほとんど勝つ、若さでも勝つ、料理と体型が完敗だ」
華奈なりの正確な自己分析を行っていた。
「でもなあ・・・」
華奈と別れた春奈は思案顔である。
「あの二人って、どんな格好で出てくるのかな」
「阿修羅は光君の身体の中に入っている」
「そして必要な時に力を出す」
「光君に任せきれない時は、変化する。コンサートの日みたいに」
「地蔵様は、そのままの姿だった」
「でもあの二人がそのままで姿を現すってどうなんだろう」
「あのゴツイ身体をねえ・・・」
「うーん・・・その前にか・・・」
春奈はスマホを手に取った。
「いろいろ聞くことがあるな」
「ルシェールのお母さんの心配を聞かなきゃ」
「必要なら光君を引き連れて奈良行く」
「そうなるとルシェールも奈良で一緒か」
「まあ、いいや、光君外国語ダメだし、だからおそらくルシェールとは結ばれないし・・・」
「華奈は、だましてお留守番させよう」
「そして大年増の圭子叔母さんに事情聴取だ」
「おそらく仕掛けがあるはず」
春奈はここでニンマリとした。
多少ルシェールへの断定は不安を感じるが、何より「華奈のお留守番」計画がうれしかった。




