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阿修羅様と光君  作者: 舞夢
144/419

第144話柔道部野村がレスリング部に拉致された

どうにか午前中の授業が終わった。

ボクシング部に絡まれる前までの光のお昼は、サンドイッチそれもフルーツクリームサンドだった。

しかし、その後のバトルやら何やらで、まず三年生の美少女由香利が弁当を作って持ってきてくれた。

その後は隣の由紀や同じクラスの女子学生たちから「心配だから」という理由で、結果的に順番にお弁当を差し出されている。

小食の光としては、ヒイハアいって食べているけれど、出した方は真剣である。

光が何から口に入れるか、何を最後に食べるのかしっかりメモまで取っている。

光の知らないところで、お弁当NO1獲得競争が始まっていたのである。


さて、今日は二学期最初の日ということで、隣の由紀が当番のようだ。

「はい、光君、しっかり食べてね」

由紀は満面の笑みを浮かべてお弁当を光に差し出した。

しかし、光の様子が少し変。

いつものぼーっとした顔でもなく、キョトンとした顔でもない。

少なくとも焦った顔になっている。


「あ・・・お弁当・・・ありがとうございます」

光は確かに由紀のお弁当にはお礼を言った。

しかし、見るところ、光の手にはもう一つのお弁当がある。

「む・・・・」

由紀の表情が変わった。

「これは・・・」

他の女子学生も寄って来た。


「由香利さんだ」

「由香利マークが縫い付けてある」

「しかもハートマークまで・・・」

「光君ラブだって」

女子学生たちの顔が、段々とキツクなる。


「いつもらったの?」

少なくとも朝はもっていなかった。

由紀は本当に怒っている。

しかし、光にとって由紀は恋人でもなんでもない。

そういう仲であるのに、他人から弁当をもらって怒られるなども理由がわからない。


「あの・・・さっきの休み時間に」

タジタジと光が応える。

「・・・まあ、しょうがないね」

あまりのタジタジさに、由紀も少しおさまった。

「中を開けて見たら?」

由紀の考えとしては、両方食べさせればいいし、味で勝てばいい、そう思ったのである。

ただ、開けて見て驚いた。

中には、由香利からのメモが入っている。


「何だろう・・・」

これには、いい加減な光も反応した。

さすがに女子学生が集まっている前で、由香利の手紙を無視することも変だ。

それに由香利から今朝レスリング部の不穏な旨のメールをもらったばかりである。

また、手紙も便箋ではない。

普通のメモ用紙だった。


内容は単純、由香利にしては珍しく走り書きである。

「レスリング部高田に注意」

「光君をどこかで襲うみたい」

「顧問の村田先生が光君のことを怒っているらしい」

「何でも、素行不良で校内追放を狙っているみたい」

「でも、危ない人だから内緒でね」


光はメモを読み終えて首をかしげた。

「素行不良?」

「確かに怠け者だけど・・・悪いことはしていない」


光と一緒に「メモ」を見ていた由紀たちも首をかしげる。

「由香利さん、確かに光君を狙っているけど、変な嘘は言わない」

「高田って人、由香利さんのクラスだよね」

「そういうこと、口走っているのかな」

「ああ、そう言えば高田さんって、秘密が守れないタイプって聞いたよ」

「うん、テストの点数とか盗み見して、全部ばらされるとか」

「でも顧問の村田先生も、どうして秘密を守れない人に、そんな危ないこと頼むのかな」

「うーん・・・謎だ」

「でも由香利さんに悪いから、これ内緒ね」

「それからお弁当は二つ食べて」

「光君のこと、これから毎日送って帰るかな」

女子学生たちが光を取り囲んで様々盛り上がる中、光は必死にお弁当を二個食べていた。


ただ、光と取り囲む女子学生たちには直接の動きはなかったが、男子学生たちが何か騒いでいるようだ。

「おい!よせ!」

いろんな声が聞こえて来た。

語調も少々不穏。

これには、光も立ちあがった。

弁当はまだ、十分の一しか進んでいない。


「どうしたの?」

光は、騒いでいる男子学生たちの所に近寄った。

「ああ、光君、ごめんね」

「それがさ、野村君がいきなり三年生の高田さんに連れて行かれたのさ」

「止められなくて」

男子学生の顔は、少し腫れている。

「理由は何なの?」

光が尋ねるが、誰も答えられない。

ただ、理由もなく引きずっていってしまうとは、いかに三年生の先輩とはいえ、認められることではない。

しかし、野村とて柔道では都大会三位の実力者である。

そんなに簡単に、引きずられることもありえない。

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